パワーバーの提供元



俺にはちょっとした収入がある。
収入と言っても現物支給だけどな。

「新開くん!東堂様の新しいのある?」
「尽八なら、休憩中のがあるぜ。」
「ホント?じゃぁそれ、このパワーバーでお願い!」

今日も俺はスマホを片手に女の子とおしゃべり。
いつも内容は、自転車部の写メのやりとりだ。
俺が撮った写真を女の子に送る、代わりに俺はパワーバーをもらう。
ギブアンドテイク、だろ?
馴染みの子は俺の好きな味を把握してくれてるからすごく助かる。
殆どの子が尽八か寿一指名なせいで、俺のスマホのフォルダはその二人でいっぱいだ。
でも時々、レアな子がやってくる。
噂をすれば、ほら。

「隼人くん、ちょっといいかな?」

そう言って控え目に俺を呼ぶ小鳥遊は、いつも他の子がいなくなってから声をかけてくる。
俺はにっこり笑って、小鳥遊の方へ近づいた。
お互い壁を向いたまま、体をぴったりとくっつけてスマホの画面を開いた。
左腕に当たる、小鳥遊の右腕が柔らかくていつも少しドキドキする。

「荒北くんのって、新しいのあるかな?」
「部室で転寝してるやつがあるぜ、ホラ。」
「わぁ、可愛い……。それちょうだい?」

写メを見せると薄らと頬を染めて、目を輝かせた。
恋する女の子ってのは、なんかこうキラキラしてるよな。
俺は小鳥遊からバナナ味のパワーバーを受け取ると、写メを送った。
そしてカメラを起動して、スマホを小鳥遊に向けた。

「もう一枚、寮での靖友のやつあげるからさ。小鳥遊のも一枚撮らせてくれないか。」
「え?私?」
「あぁ。ダメかい?」
「別にかまわないよ、でも荒北くんのもらっていいの?」
「撮らせてもらうお礼、ってことでさ。」
「悪用しないでね?」

俺を見てふんわりと笑う小鳥遊は、やっぱりキラキラしている。
小鳥遊は撮った写メに少し不満そうだったが、自然な笑顔が撮れて俺は満足した。
靖友の写メをもう一枚小鳥遊に送って、教室に戻る小鳥遊を見送った。







部室へ向かう途中、後ろからドンッと何かをぶつけられた。
振り返るとそこには靖友がいて、少し不機嫌そうに鞄を振り回している。
どうやらその鞄をぶつけられたらしい。

「痛いじゃないか。」
「ッセ。テメーさっき小鳥遊と何してやがった。」
「別に、ただ話してただけさ。」
「うそついてんじゃねェよ。男にあんな笑いかけてる小鳥遊見たことねェっつの。」

そう言って口を尖らせる靖友は、拗ねた子供のようだ。
”お前の話をしてたんだ”なんて言ったら、お前はなんて言うんだろうな。
そう思うと少し笑えて来て、隠すためにさっきもらったばかりのパワーバーを口に突っ込んだ。
次の瞬間、それを靖友がすっと口から引き抜いた。

「おい、コレ小鳥遊からもらったヤツだろーが。」
「それがどうかしたか?」
「テメーにはこれやるよ!」

そう言って靖友は自分の鞄からパワーバーを出して俺の口に突っ込んだ。
これ、俺の好きな味じゃない……。
名残り惜しげに靖友が食べているパワーバーを見ていると、靖友が何か言い辛そうにこちらをチラチラ見ている。
俺はスマホを取り出して、さっき撮ったばかりの小鳥遊を見せた。

「お目当てはこれ、だろ?」
「わかってんじゃナァイ。」
「じゃぁいつもの、な。」
「チッ。これでいいんだろ。」

そう言ってパワーバーを一本俺に握らせると、靖友は俺からスマホを奪って勝手に操作を始めた。

「おい、ちょっと待て靖友。」
「ンだよ。」
「その小鳥遊、すごく可愛いだろ?」
「……おう。」
「パワーバー3本分くらいの価値があるとは思わないか?」
「ハァ?!てめ、それ本気で言ってんのォ?」
「もちろん。」

そう言うと靖友はため息をついて、鞄からパワーバーを取り出した。
追加で二本のパワーバーを受け取ると、その一本を靖友に返す。

「あ?3本分だろうが。」
「2本でいい、代わりに靖友を撮らせてくれよ。」
「ハッ、何だそれ。」
「好きじゃない味のパワーバー3本貰っても仕方ないからな。」

そう言うとしぶしぶ俺にスマホを返した。
眉間に皺を寄せたまま、すごく嫌そうな靖友を一枚撮る。

「顔が怖いぜ、ちょっとは笑ってみろよ。」
「ンなの出来るわけねーだろ!」
「小鳥遊見てる時のお前でいいんだ、出来るだろ?」
「ッセ、できねェもんは出来ねェんだよ!」

それでも頬を少し赤くして、口を尖らせる靖友はさっきよりずっといい。
もう一枚、追加で撮ってスマホをしまった。

「気が済んだかよ。」
「あぁ。」
「その……また頼むわ。」
「任せとけよ。」

珍しく素直にそう言って、靖友は部室へ歩いて行った。
今日のは靖友も随分気に入ったらしいな。
俺は部室に向かいながら、メールを一通送った。

”靖友の新しい写メ、2枚あるよ”


story.top
Top




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -