必然の再会




お隣さんの寿一くんは、私より4つ年下の男の子だ。
お父さんもお兄さんもロードバイクに乗っていて、寿一くんも小さい時から乗っているのを見てきた。
昔は引っ込み思案な子だと思っていたけど、大きくなるに連れて寡黙な青年へと成長していく姿は、一人っ子の私にはとても新鮮だった。
性別が違うからかあまり関わることはなかったけど、高校はお父さんの母校へ進学したと言っていたのはもう3年前。
気がつけば私は4回生になり、寿一くんが新入生として入学してきていた。
遠くからでもすぐわかる金髪の彼は、私と目が合うとかすかに口元を緩めた。
まさか、私に気づいた?
もう何年も会ってないのに、そんなわけないか。
期待した自分に呆れながら視線を外すと、呼び止められた。

「雛美さん。」

以前よりずっと大人っぽくなったその声は、微かに昔の面影を残している。
振り返ると寿一くんが、私の方へ駆けてきていた。

「久しぶりでわからないかもしれないが、隣に住んでいた福富寿一です。ご無沙汰してます。」
「え、いや、覚えてるしすぐわかったよ。寿一くんこそ、よく私だってわかったね?」
「雛美さんは綺麗なままですから。」

迷いのないその言葉に驚いた。
贔屓目で見ても私はそれなりだ。
綺麗や美人なんて言葉は言われたことがない。
なのに寿一くんは優しい微笑みを私に向けている。
嘘はつけない性格だったと思うけど……。

「お世辞はいいよー。それより、昔と同じ話し方で大丈夫だよ。幼馴染だし、気にしないから。」
「そうか?でもそれでは周りに示しがつかないんじゃ……。」
「いやいや、大学なんてみんな好き勝手やってるんだから私たちがどう話してようが変わらないよ。だから気にしないで。」

そう伝えると、寿一くんはやっと昔の話し方に戻った。
子供にしては少し堅苦しいと思っていた話し方も、このくらいになればとても凛々しく聞こえるから不思議だ。
寡黙だったはずの彼は、それから私を見かけるたびに声をかけてくれるようになった。
他愛のない話ばかりだけど、懐かれているようで悪い気はしない。
可愛い弟が出来たようで、私はとても楽しかった。



そんなある日、レースに出るから観にきてくれないかと誘われた。
ちょうど研究もひと段落していたこともあり快諾すると、子供のような無邪気な笑顔を向けてくれた。
それがとても嬉しくて、私は初めて1人でレースを観にいくことにした。
小さな時親に連れられてきて以来のレースは、寿一くんが出ていることもあってとても興奮した。
最初から最後まで、寿一くんの名前や番号が耳に入るたびにそわそわと落ち着かなかった。
そんな私の目の前を1番に通り抜け、寿一くんは優勝した。
ゴールした寿一くんは汗びっしょりで息も荒く、いつもの優しげな雰囲気と違い声をかけていいのかわからない。
でもその姿はとてもかっこ良くて、ドキドキして。
私は寿一くんから目が離せなかった。
そんな視線に気づいたのか、寿一くんはちらりとこちらを見ると手を振ってくれた。
私も軽くてを上げると、寿一くんはふっと笑って近づいてきた。
ドキドキとはやる胸を必死に抑えて、いつも通り笑って見せる。

「一番だったね!おめでとう、すごいね!」
「ありがとう、雛美さんが見ていてくれたから頑張れたんだ。」
「またまたー。それは寿一くんが頑張ってるからこその結果だよ。」
「そんなことはない。俺は、このレースで優勝したら伝えようと思っていたんだ。……雛美さんが好きだ。」
「………え?」

突然の出来事に、心臓が爆発しそうだ。
寿一くんは、嘘はつけない。
だからきっとこれは彼の本心で、きっと私の答えを待ってる。
私の気持ちは……。

「付き合って欲しい。」
「わ、私……私みたいな、凡人でいいの?」
「雛美さんは自分を卑下しすぎだ。そんなところも好きだが。」

クスリと笑った彼に、私はもう何も反論できない。
だってそんなまっすぐな目で見られたら、勝てる気がしないもの。

「付き合ってはもらえないだろうか。」
「ううん、嬉しい。ありがとう。」

私はこの日のレースを一生忘れない。
きっとこれからレースを観るたびに、思い出す。
寿一くんの気持ちを積んだ、この熱いレースを。




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