夜空の決意

※"星の降る夜に"の続きです





学校が終わってすぐに校門へ行くと、荒北くんはすでに待っていてくれた。
最後の授業をサボったのは知っていたけど、いつから待っていてくれたんだろう。
足元はずぶ濡れになっていて、リーゼントも湿気を吸ってか元気がない。

「ごめんね、お待たせ。」
「おっせーんだよ。」

そう言いながらも歩幅を合わせてくれているのに、少し嬉しくなった。
口調はきついけど、多分その言葉ほど嫌悪はしてないんだろう。
チラチラと垣間見える優しさが、私の胸を高鳴らせた。
強い雨は傘をさしていても制服にしぶきを飛ばし、プラネタリウムに着く頃にはお互いびしょびしょになっていた。
荒北くんのリーゼントも完全に崩れて、夜に会う時と同じ姿は私をドキドキとさせる。

「ったく、びしょ濡れじゃねェか。」
「あ、これ使って。」

鞄からタオルを取り出して渡すと、荒北くんはそれを広げて私の頭に乗せた。

「テメーのが濡れてんだろーが。」

そう言って少し乱暴に拭かれて、髪はぐしゃぐしゃになってしまった。
そんな私を見て笑う荒北くんに同じようにやり返すと、ケラケラという楽しそうな声が聞こえてくる。

「俺にんなことすんの、小鳥遊しかいねェよ。」

それがなんだが褒められているようで嬉しくなる。
そうしてお互いをある程度吹き終わると、私たちは館内の奥へと進んだ。





初めてのプラネタリウムにソワソワしながら席につくと、荒北くんはクスリと笑った。

「楽しそーだな。」
「だって初めてなんだもん。」
「星好きなくせにきたことねェの?」
「うーん、前までは星が好きっていうか夜に憧れてて……。」

始まるまでの間、私は少し昔話をした。
つまらないだろうその話を荒北くんは遮ることもせずに聞いてくれた。
そして話が終わる頃、荒北くんはぼそりと呟いた。

「暗ェのは、怖ェことなんだぜ。」

そうして伸びてきた手は私の手をしっかりと握った。
突然のことに驚きつつも、ナレーションが始まったプラネタリウムで話すことは憚られて私は口をつぐんだ。
握られた手は熱く、鼓動がやけにうるさい。
暗い館内にキラキラと輝く星たちはとても幻想的でワクワクとするのに、私の胸はそれどころじゃなかった。
夜に憧れていたけど、暗いことを怖いと思ったことはない。
ただ一度、心細いと思ったことがある。
そしてその時、それを振り払ってくれたのは……。




上映が終わる頃には、私は気持ちを自覚していた。
毎週会えるのがいつしか楽しみになっていたことも、噂が立っても構わないと思ったことも。
全ては相手が荒北くんだったからだ。
次第に明るくなる館内は、私の真っ赤な顔を隠してくれない。
ちらりと横を見れば薄っすらと色付いた荒北くんと目があった。

「……楽しかったかよ。」
「えっ、あ……うん!たのし、かった。」
「ハッ、なんだそれ。」

本当は覚えていない。
ナレーションの声は耳に入ってこなかったし、頭の中は荒北くんでいっぱいだった。
そして今も繋がれたままの手は熱く火照っていて、そこから鼓動が伝わるんじゃないかとソワソワしてしまう。
それを知ってか知らずか、荒北くんは私の手を引いて歩き出した。
繋がれたままの手から、想いが伝わればいいのに。
そんな魔法みたいなこと、あるわけないよね。
そんなことを考えていると荒北くんが立ち止まった。
どうしたのかと顔をあげれば、私をちらりと見て小さな声で呟いた。

「雨降ったらまた連れてきてやっから。」

消え入りそうなその声に、期待をしてもいいんだろうか。
次に夜空の下で会うことが出来たら。
その時はきっと、想いを告げられる気がした。



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