ふたつにひとつ(ver.新開)

※途中まで荒北と同じです。


昔から対して目立つわけでもなく、私は平凡に育ってきた。
特別可愛いわけでもなく、特別勉強ができるわけでもない。
人並みにアイドルやファッションが好きで、標準に近い私。
強いて言うなら他の人より少しだけ動物が好きなくらいで、他は特に変わったことなど何もない。
友達に感化されて自転車部を見に行ってはキャーキャー騒ぎ、時々怒られる。
私はこれからもずっとそんな生活が続くんだと思っていた。
今日のこの時まで。




「好きなんだ。俺と付き合ってくれないか。」

突然の告白に固まる私と、和かに笑う新開先輩。
そしてその横には舌打ちをする荒北先輩。
思考回路がパンクして何も言えない私に、追い打ちをかけるように荒北先輩が言葉を重ねた。

「俺にしとけよ。」

その言葉は私をさらにパニックにさせた。
一体何が起こっているんだろう。
夢なんだろうか。
いや、夢に違いない。
そう思った瞬間、私は意識を手放した。




気がつくとそこは保健室だった。
ベッド脇の椅子には新開先輩と荒北先輩が座っていて私を見ている。
あぁ、まだ夢の中なんだろうか。
そう思ってもう一度布団をかぶると、優しく肩を叩かれた。

「気がついたか?驚かせてすまないな。」
「急にぶっ倒れたから、どっかぶつけたりしてねェか?」

私は現実かどうかわからず自分の頬をつねった。
ものすごく痛い。
どうやらこれは夢ではないらしい。
夢かもと思って力いっぱいつねるんじゃなかったと思いつつ起き上がり布団から顔を出すと、2人と目があってしまった。
気まずいながらも何か言わなければ進まないんだろう。
私は深呼吸をして、先ほどのことを確認した。

「えっと、さっきのは一体……?」
「そのまんまだけどォ?」
「好きなんだ。」
「すみません、私……先輩方と個人的に関わったことがあったでしょうか……?」

部活を見に行ったことはあれど、個人的に話したことはないはずだ。
私のことを知っていたことすら不思議で仕方が無い。
そんな私に、新開先輩はにこりと笑って話し始めた。

「最初は靖友だったんだ。黒猫にエサやってる奴が他にもいるって。それが誰だか探してたら、小鳥遊さんに行き着いた。」
「そっからお前のこと気になって、見てるうちに新開のうさぎにもエサとかやってんの気付いたんだよ。」

どうやら私は知らず知らずのうちに、二人に観察されていたらしい。
変なところ見られていないか不安になったけど、どこを見られていたのかわからない。
ついさっきまで遠い存在だった先輩たちがこんなに近くにいることすらまだ私には信じられなかった。

「それからつい、小鳥遊さんに目が行ってさ。気づいたら好きになっちまってた。」
「動物が好きなやつは嫌いじゃねェ。」

そう言って二人は私をじっと見つめてくる。
この場で答えを出せと言わんばかりのその視線に胸が痛い。
どちらも憧れの先輩で、付き合うなんて考えるのも烏滸がましいと思っていたのだ。
今すぐに選ぶなんて私にはできない。

「すみません、私には選べないです……。」
「俺たちじゃダメってことか?」
「いえ、そういうことではなくて……。」
「じゃぁ何だよ。」
「平凡な私なんかが先輩方となんて、不釣り合いっていうか。申し訳なくて……。」

ぺこりと頭を下げた私の頭を荒北先輩が少し荒っぽく撫でた。

「俺らが勝手に好きになってんだろ。悪ィとか思ってんじゃねェよ。」
「それに平凡だとは思わないけどな。小鳥遊さんは魅力的だ。」

その2人の言葉にほだされて、私は頷いてしまった。
どちらか決めることなんて出来ない。
でも。

「考える時間を頂けますか?」

そう伝えると、2人は顔を見合わせて笑った。
平凡だった私の生活がその日から一変してしまった。




朝から教室には先輩たちが来てくれて、部活の見学に誘われた。
断る理由もないので行くことを伝えると、新開先輩がにこりと笑う。

「良かったら、昼休みも一緒に食わないか。」
「あ、てめ!俺も行くからァ!」

荒北先輩の勢いに逆らうことなんて出来なくて、私はそれも了承した。
それから毎日のように、2人は私のところへやって来た。
一緒に過ごすうちに、だんだん2人の性格もわかってきたと思う。
荒北先輩は言葉や態度は粗暴だけど、本当は優しくて照れ屋だ。
勘が良すぎて、あまり隠し事は出来そうにない。
新開先輩は優しくて大らかで、ちょっと優柔不断。
甘いものには目がなくて、可愛いものや小さいものが好き。
思ったことをすぐ口にするせいで、私はいつも新開先輩と会うと顔を赤くしていた。
全然違う2人と一緒にいるのはとても楽しくて、ずっと続けばいいのにと思ったこともある。
だけど、いつかはどちらかを選ばなければいけない。
傷つけない方法がないものかと、ずっと考えていた。
だけどそんなに私は器用じゃない。
下手をして2人を傷つけてしまうかもしれない。
そう思えば思うほど答えなんて出せなくて私はずっと悩んでいた。
そんなある日、新開先輩から風邪を引いたとメールが来た。
症状は落ち着いているけど大事をとって部活は休むという。
私は心配になり、新開先輩を訪ねた。



「雛美ちゃん!」

新開先輩は私を見つけると満面の笑みで駆け寄ってきた。
その足取りはいつもより少し重たそうで、声もかすれている。
私は念のためと思い持ってきたマスクを手渡した。

「風邪引いてるんですから走っちゃダメですよ。あと、マスクしないと。保湿できるから喉にもいいんですよ。」
「雛美ちゃんは物知りだな。ありがとう。」

そう言ってマスクをつけた新開先輩は、表情が隠れてしまったせいかいつもより凛々しく見える。
だけど笑うと優しい目元がより強調されて、その愛らしさに胸がきゅんと高鳴った。

「部活行けなくて暇なんだ。ちょっと付き合ってくれよ。」
「体調が万全じゃないからお休みなのに、無理しちゃダメですよ?」
「わかってるって。」

そう言いながらも歩き出す新開先輩の足元はしっかりしているとは言い難い。
私は慌てて引き止めた。

「やっぱりやめましょう。風邪が治ったらいつでもお供します。だから今日は休んでください。」
「でもっ……せっかく2人きりなのに……。」

そう言ってうなだれる新開先輩は、年上とは思えない。
その姿に私はドキドキしてしまう。
心の奥底から、好きだという思いが溢れてくるようだ。
力なく首をイヤイヤと振っている新開先輩の頬に優しく触れた。

「私は先輩が心配です。早くかぜを治して、その……2人で、デートしませんか?」
「え、それって……。」
「好きです。だから、無理しないで欲しいです。」

新開先輩は目を丸くしてから、柔らかく笑った。

「俺と、付き合ってくれないか」
「こちらこそ、宜しくお願いします。」
「早く風邪治すから!治ったらデートな!」

そう言って笑う新開先輩を見送り、私は自転車部へと向かった。




今日は軽めの練習らしく、しばらく待つと荒北先輩が部活を終えて出てきた。
待っていた私に気づくと、嬉しそうに駆けてきた。

「小鳥遊!どうしたのォ?」

その嬉しそうな顔に、胸が張り裂けそうだった。
それでも長引かせる方がきっと傷つけてしまう。
私は深呼吸をして、荒北先輩を見つめた。

「お疲れ様です。荒北先輩を待ってました。」
「あんがとねェ。何かあったのか?」
「はい。えっと……。」

口ごもる私に荒北先輩の表情が曇る。
勘のいい先輩のことだ、きっと今から私が言うことがわかるんだろう。
それでも私から逃げずに聞いてくれるその姿勢が、胸に響く。

「私、新開先輩と付き合うことになって……。」
「……やっぱりな。」

眉を下げて笑う荒北先輩の顔はとても痛々しくて、見続けることができなかった。
"ごめんなさい"と謝ることはしない。
誰が悪いわけでもないのは知っている。
仕方が無いことなのはわかっている。
謝りたいと思うのは、私が楽になりたいからだ。
私はその言葉をぐっと飲み込んだ。
俯いた私の頭を荒北先輩の手が優しく撫でた。

「少しでも俺のこと考えてくれてありがとな。楽しかったぜ。」

その言葉に私も頷きそうになった。
私も楽しかったと言いたくなる。
けどそれは言ってはならない言葉だ。
代わりに私はありったけの感謝を込めて、頭を下げた。

「ありがとうございました。」
「おう。新開と仲良くなァ。」

そう言うと、荒北先輩は手を振って行ってしまった。




寮に帰り新開先輩に報告のメールを打つと、すぐに電話がかかってきた。

「大丈夫か?」

その優しげな声にホッとして、涙が出た。
荒北先輩傷つけてしまったという事実が私にのしかかる。
そんな私の取り留めもない話を新開先輩はゆっくりと聞いてくれた。

「靖友らしいな。」

話終わるとそう言って、新開先輩はため息をついた。
新開先輩は明日からも毎日顔を合わせるのだ。
辛いのは私だけじゃない。

「お二人の中を気まずくしてごめんなさい……。」
「元はと言えば俺たちが悪いんだ。雛美ちゃんが気にすることないさ。」

それでも選んでしまったのは私だ。
落ち込む私に、新開先輩は言い聞かせるように優しく話した。

「仲良く、って言われたんだろ?だったら落ち込むより、俺たちが笑ってる方が靖友もいいんじゃねぇかな。あいつは勘がいいから、いつまでも落ち込んでたら自分のせいだって気づくとおもうぜ。」

その言葉にはっとした。
私は知らず知らずのうちに、また傷つけてしまっていたかもしれない。
気持ちを切り替えることなんですぐには出来ない。
だけど、いつまでも引きずっているわけにはいかなかった。
泣くのも、悲しむのも今日までにしよう。

「新開先輩。」
「うん?」
「今だけ、泣いてもいいですか?」
「あぁ。」

今日を最後と決めて、私は泣いた。
荒北先輩の前では笑えるように。
新開先輩は嫌がらずにずっと話を聞いて私を宥めてくれた。
全部さらけ出させてくれた。
その優しさが私を満たして行くようだ。
新開先輩の思いが少しずつ私を侵食して、好きと幸せという思いで満たされて行く。
平凡で不器用で情けない私だけど、自分をごまかすことはしない。
それが私なりの誠意だから。
それも全部受け止めてくれる新開先輩は、私にとって掛け替えのない存在になっていた。
いつも私を甘やかしてくれてありがとう。
いつか私も、新開先輩に甘えてもらえる存在になれますように。



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