君のカクテル




久々に誘われた飲み会で、上司の奢りだと耳にしたのがいけなかった。
ここぞとばかりに飲んでしまった私は半分意識は夢の中で、周りにいる子に絡んでしまった。

「ねぇ、もうのまないのぉ?」
「小鳥遊さん、飲み過ぎじゃないですか?」
「ぜんぜーん!だいじょうぶ!」

心配する後輩をよそに、私はまたグラスを空けた。
新しいのを頼もうかと店員さんを呼ぶと、今までとは違い若い子がやってきた。

「ご注文どーぞ?」

少しめんどくさそうにそう告げたその子は、切れ長の目で不機嫌そうなところが猫に似ていてつい口元が緩む。

「君のオススメはぁ?」
「どういうのがお好きなんすか?」
「気が強くて意地っ張りだけど、本当は素直で可愛い子かなぁ。」

自分でも何を言ってるんだろうと思った。
だけど酔っていたでは済まないだろうその言葉を、彼は笑い飛ばすようにこういった。

「生憎そういうのはわかんないっすね。まぁ酒ならこの辺りがいいかと思いますけど。」
「じゃぁ君のオススメ一つくださいな。」
「畏まりました。」

そういってニヤリと笑ったその子は、私に梅酒を使ったカクテルを勧めてくれた。
それに従うように注文すると、すぐに出てきたそれは彼自身が作ったのだという。
それがなんだかとても嬉しくて、私は和かに口に含んだ。
思ったよりも度数がありそうなそれは、口に含むと梅の甘い香りとリキュールの爽やかな辛みが混ざり合い独特の風味を生み出している。
アルコールも強すぎず弱すぎす、とても私好みだった。

「美味しい……!」

気づけばそのカクテルばかり呑んでいた私を嗜めるように、上司はいそいそと会計をしてしまった。
そしてその幸せな酔いも冷めぬまま、私は三次会へと連れ去られた。



それからというもの、私はあのカクテルが忘れられずにいた。
どうにかもう一度飲みに行こうと思いつつ、残業ばかりの日々にため息が出る。
やっとのことで休みに入った私は、さっそくあのお店へ足を運んだ。
出迎えてくれたのはあの子ではなく、内心少しがっかりした。
あの人同じものを頼んだはずなのに、どうもあの感動は得られない。
自分のせいかと思いオーダーを重ねるうちらだんだん酔いが回ってきた。
ちょっとこれ以上飲むのはしんどいかな。
そう思っていた時、あの彼がお冷を持ってやってきた。

「あっ!」
「あっ……。」

彼も私に気づいたのか、ニヤリと口角をあげて笑った。
それがなんだかとても嬉しくて、私も笑って返した。

「久しぶりだね。」
「そっすね。」
「ねぇ、あのカクテル飲ませてよ。」
「えっ、でもだいぶ飲んでるんじゃ……?」
「最後の一杯だから!」

そう懇願する私に彼はため息をついて、あのカクテルを出してくれた。
やっぱり彼が作ってくれるカクテルは、優しさの味がする。
カクテルをゆっくり味わっていると、彼がやってきて一言だけぼそりと零した。

「来週も21時から、シフトですけど。」

その言葉に顔を上げると、目があった彼はうっすらと頬を染めて視線をそらしてしまった。
それは、また来ていいってことだよね?
好きかどうかなんてまだわからない。
ただこのドキドキをまた来週味わえるのかと思うと、私は自然と頬が緩んでいくのだった。


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