盲目の罠(にわなずな様リクエスト)

《1》

寿一と付き合い始めてから、もう3年が経つ。
見た目と中身のギャップに気づいてからどんどん惹かれて行って、高校も追いかけるように箱学へ入った。
普段は無口で相槌くらいしかしない寿一が、自転車のことになると饒舌になるのがとても好きだった。
そんな私たちの間に入り込むように彼がやってきたのは、いつからだっただろう。
"福ちゃん"と親しげに呼ぶ姿に少し嫉妬した。
『その人は私のだ』と主張したい思いを必死に抑えて、私は寿一の隣で笑った。
そんな私に気づきもせず、寿一はその荒北くんと仲よさげに部活へ行ってしまう。
心の中でモヤモヤが私を覆い、包み込んでしまう頃には行き場をなくしてしまった。
そうした積み重ねの中で、私はもう何に嫉妬しているかさえわからなくなった。
ただ、寿一に私を見て欲しい。
その想いばかりが強くなり、次第に空回りし始めた。
そんな私を見透かしてか、荒北くんが声をかけてきた。
ニヤリと口角を上げたその姿に嫌悪すらした私は、彼の言葉も聞かず逃げるように教室を出た。



それから毎日のように、荒北くんは私に声をかけてきた。
いつも決まって、誰もいない時だ。
それが私を余計に不安にさせた。
"荒北くんと関わっちゃいけない"
そんな気がした。
それなのに。

「なァ、逃げんなよ」

今日は逃さないとばかりに腕を掴まれ、拘束された。
掴まれた腕は痛みこそしないものの逃げられそうにない。
観念して荒北くんを睨むように見ると、また彼はニヤリと笑った。

「その顔、俺が福ちゃんといる時いつもしてんのナァ。」
「なっ……。」
「知ってんだよ、何もかもな。俺に妬いてんだろォ?福ちゃんお前といるより俺といる方が長ェもんなァ。」

嫌味ったらしく囁くような声に、鳥肌が立つ。
"誰かきて"、その願いも虚しく私たち以外の足音すらしない。

「……なァ、福ちゃんにも嫉妬させたくねェ?」
「は……?」

寿一に嫉妬させる?
思いもよらない提案に口をあんぐりと開けた私を見て、荒北くんはクツクツと楽しそうに笑う。
それにムッとして睨み付けると、またあのにやけた顔に戻った。

「自分ばっかり嫉妬してるって不満なんじゃねェの?」
「そ、それは!荒北くんに関係……ないでしょ。」
「マジで関係ねェと思ってんならいいけどォ。俺なら手伝ってやれんのになァ?」

私のことが好きなら、嫉妬してくれるだろうか。
嫉妬してくれるほど私のことを見てくれるだろうか。
……他の男といたら、きっと……。
そんな淡い期待が膨らんでいくにつれ、荒北くんの口角は上がっていく。
これが悪魔の囁きと言うのだろうか。
私は気づけば、yesと答えていた。
この時私は終わりへの第一歩を踏み出したのだと、ずいぶん後になってから気づくことになる。



荒北くんの誘いに乗ってから、私は毎日彼にメッセージを送っていた。
なんてことはない、ただの雑談ばかりだったけど、それは寿一とは交わしたことのないものだった。
暫くして時折電話もするようになり、私の中で荒北くんの存在が膨らんだ。
話してみれば読んでいる雑誌が同じ系統だったり、好きな音楽が似ていたりとなかなか趣味が合った。
そのせいか、最初彼に抱いていた嫌悪は消え去り、当初の目的を忘れそうになる程話し込むことすらあった。
そんな折、私は隼人くんに呼び止められた。

「最近、靖友と仲がいいんだってな。」
「え?あぁ、うん。なんか好みが似ててさー。」
「前は毛嫌いしてただろ?」
「えー、そんなこと……。」

隼人くんと話していて、私はハッとした。
隼人くんが気づいていて、寿一が気づいてないなんてことあるだろうか。
いくら鈍い寿一とはいえ、流石に気づいてるんじゃないだろうか。
隼人くんとの世間話を終えてから私は頭を抱えた。
寿一の前で電話したり、メッセージのやり取りをしていたことだって少なくない。
だけど私は一度だってその相手を聞かれたことはなかった。
気づいてない可能性がないわけじゃない、だけどもしかしたら。
そう思ったらいてもたってもいられず、私は荒北くんに電話した。
"これからは教室でも話したい"そう告げると荒きたくんは電話口でハッと笑い、快く了承してくれた。
最初は嫌なやつだと思ったけど、案外そうでもなかったらしい。
軽く挨拶を交わして電話を切り、私はそそくさと帰宅した。



翌日から荒北くんは、これでもかと私を訪ねて来てくれた。
その姿に寿一は目を丸くしていたし、驚いて声をかけてくれたほどだった。

「雛美、荒北と仲がいいのか。」
「あ、うん。いろいろ趣味が似てるみたいで、最近よく話すんだ。ね?」
「おう、福ちゃんもいい趣味してんネ。」

そう言いながら私を上から下まで見ると、ニヤリと笑った。
これも荒北くんの作戦だろうか?
荒北くんは私を軽く引き寄せると、鼻をスンスン鳴らした。

「シャンプー替えたァ?」
「ううん?」
「いつもと匂い違くねェ?」
「そう?あー、化粧水替えたからかな。手に残ったの髪につけてるから。」

"良くわかったね"、なんて言葉を交わしていると、今度は寿一に引き寄せられた。
私の頭上でスンスンと鼻を鳴らしているけど、違いがわからないのか首を傾げている。
その姿がおかしくて笑っていると、少しムッとしたようだ。
眉間にシワが寄っている。

「ごめんね、でも気づかなくても仕方ないよ。私だってわからないし。」

フォローを入れても機嫌は治らないのか、そのまま鐘がなり荒北くんは教室へ帰っていった。
少しは嫉妬してくれたのかなと思いつつ、ただの対抗心にも思えた。
もう少し何か、大きな変化がわかるといいんだけど。
私はさらなる荒北くんの活躍に期待して、頬が緩んだ。

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