おりこうちゃんと呼ばないで



入学してすぐ、その姿が鼻についた。
制服は着崩すこともなく、スカートの丈もひざ下。
ストレートの黒髪をゆるく束ねているゴムさえも黒く、しゃんと前を向くその姿が"優等生"そのものだった。
なに一つ、規則を乱さない。
それが小鳥遊の第一印象だった。
何の因果か同じクラスになった上、小鳥遊がクラス委員になったせいでやけに関わりが増えた。
授業をサボるたびに小言を言われ、プリントを渡される。
俺がどんな態度を取ろうと柔かな表情を崩さず、淡々と卒なく自分の仕事をこなす姿に反吐が出た。
そして今日もそれは変わらず、授業に出なかった俺を目ざとく見つけて追いかけてきた。

「荒北くん、待って!これ、今日の課題とっ……」

いつだって小鳥遊には見つかってしまう。
どんなにうまく逃げようとも、校内にいる限り安全圏なんてない。
だからつい。
いつもは言わない言葉が、口から滑り出た。

「ったく、てめーは教師の犬かよ。」
「えっ?」
「教師の言うまま、俺につきまといやがって。目障りなんだよ、おりこうちゃんがよォ。」

一瞬にして、空気が凍るのがわかった。
いつもなら嫌味を吐いても苦笑しながら要件を済ます小鳥遊が、俯いたまま小さく震えている。
言いすぎた。
そんなことはわかっていた、だけど今更どう取り繕えばいい?
立ち尽くす俺をキッと睨みつけた小鳥遊の目にはうっすら涙が浮かんでいる。
白くなるほど噛み締めた唇から漏れた声は、いつもより少し掠れていた。

「……くんにはっ……荒北くんにはわからないでしょ、私のことなんか!」

そう吐き捨てるように告げると、プリントを俺に押しつけるようにして行ってしまった。
俺にはわからない?
そりゃ、おりこうちゃんのことなんか……知るわけねェんだ。
自分から関わろうともせず、逃げてばかりの俺が。
小鳥遊のことなんてわかるわけがない。
なのにその言葉が耳について離れない。
傷つけて泣かせた言葉がどれなのかすらわからないのに、気づけば謝る言葉を探していた。
だから教えてくれなんて、どの口が言えんだよ。
押し付けられたプリントには全てファンシーな付箋で提出期限が書いてあった。
小鳥遊が貼ってくれたんだろう。
一度だって出したことねェのに。
クソ真面目で優等生でおせっかいな小鳥遊の泣き顔が、頭から離れなかった。



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数日かけてこの長さですが、以前より書き込んでいるかと思います。
また数日かかるかと思いますが続きを更新致します。
宜しくお願い致します。
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