「俺はそろそろ死んじゃうんじゃないかな」
いつも通り病院の屋上のフェンス際、彼はそこから世界を眺めながらまるで日常会話をするかのようにさらりと言った。


「きっとあっけなく本当にあっけなく死んでしまうんだろう、人間が生きているか死んでいるかなんてとても曖昧だから」


「そんな事はない、どうしたんだそんな気弱な事を言ってお前らしくないぞ幸村」

「一つの線を跨ぎこえるみたいにひっそりと自分からそっちに行くって感じかな」

「……幸村?」
幸村は俺の声が全く聞こえていないかのように言葉を繋げる。
いや恐らく俺の声はあいつに届いていないのだろう二人の間をガラスの分厚い壁が隔てているようだ。


「俺は本当は強くもなんともない、迷いだってある寂しいし怖い……。」
幸村は指先が白くなるほどパジャマのズボンを強く握っている

「幸村」

「ほんとうは手術だって受けたくないでもテニスはまたしたい、成功率が低いなんて知らないまた皆とテニスがしたい」

「幸村話を聞け!」

「俺は!!神の子なんかじゃないッ!!……神なんていないんだよ真田」

いつの間にかフェンスの向こう側にいた彼はこちらにくるりと向き直り背筋が粟立つような無機質な笑顔で一言何かを呟くと向こう側に落ちていった。

「幸村!!!」
急いで先ほどまで彼がいた場所まで駆けて行き下を見下ろすとそこには無機質な笑顔を讃えた幸村と黄色い絵の具の塊の様な向日葵がこちらを見上げ蝉がとてもうるさかった。



***


夢はそこで途切れた。

「どうしたんだ真田、何だか具合が悪そうだけど」
目の前にいる幸村は夢で見たような無機質な笑顔でなく柔和な笑顔を浮かべている。

「あ……いや、少し夢見が悪くてな」

「ふふっ怖い夢でも見たのかい?」いつも通りの彼を見てほっと胸を撫で下ろすが何故かあの夢に出てきた彼が全て夢幻だったと言い切って忘れる事ができない。

俯きながらそんな事を思っていると左頬に少し冷たい幸村の手が添えられる

「ほんとうにどうしたんだ真田、いつもの暑苦しさが嘘みたいじゃないか」
俺の事は心配しなくて良いからと言う彼の瞳はじんわりと温かかった

「幸村、病などに負けるな。勝て」
「当たり前だろう、大丈夫俺は強いから。」
瞬間彼の顔にあの無機質な顔が浮かんだかと思ったが気のせいだったのだろうか……。

「失礼します、幸村くん診察の時間なのでそろそろ良いかしら」

「あ、はい。じゃあ真田お前こそ早く具合を治せよ?」

「ああ、すまない……また来る。」
「うん、待ってる」

病室から離れるとき煩い蝉の声と幸村の声で何か一言聞こえた様な気がした。


壊れた体に冷たく攻め入る向日葵


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幸真は暗いのが似合うね。

title→余韻
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