いつからだったのか思い出せないくらい前から一緒にいた、
彼は涼しい目をしていてかっこよくてそして強かった、昔はただの憧れだった、けど最近はよくわからない嫌いになったとかじゃなくて憧れと形容するのが違うんじゃないかと思うようになった。



「永四郎やーまだ残ってくんば?」
「ええ、記録をつけてから帰るんで平古場くん達は先に帰ってても良いですよ。」
あんま根詰めすぎんなよ、と言って甲斐くん以外の部員は俺を残して部室を後にした、さっきまでの喧騒が嘘の様に部室には走らせる鉛筆の音だけが静かに響く。

「あり、平古場達は?」
「彼らなら丁度いま帰りましたよ」「ぬーよ、待っててくれてもいいのによー」
甲斐くんはしゃがみ込みながら言うと大袈裟に大きなため息を吐いた、
「いま帰ったばっかだから追いつけるでしょ」
「んー、永四郎はまだ帰らねぇの?」
「俺は部誌書いたら帰るから、甲斐くんは先に帰ってていいですよ」
「……うん」

永四郎は俺の方を見ないで淀みなく言葉を吐いた、
一緒に帰ろうなんて簡単な言葉が口から出ないのは何でなのかわからない、名前だって甲斐くんなんかじゃなくて昔みたいに裕次郎って呼んで欲しいとも言えない。
俺はいつから永四郎に思った事を言えなくなったんだろう、まるで自分の中に彼に言ってはいけないものがあるみたいに。

「じゃあわん先にけーるさ永四郎」
「今日は寄り道せずに帰りなさいよ」
部室を出ると雲行きの怪しかった空からほたりほたりと雨が降ってきた、小走りで家路を急ぐ最中また彼の事が浮かんだ。

なんでさっきはこっち振り向かないで話したのかとか、あいつ傘持ってるのかとか考えると胸の中がちくちくとしみる。

もしこの気持ちの名前に気づいたら彼は今まで通りに俺を隣においてくれるのだろうか、そんな事を考えて俺はいつの間にかぬかるみはじめていた足元を強く踏んだ。



体のどこかで痛いよ警報が鳴っている




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