企画小説 | ナノ


「まま!」
「はーい」
「まま!おてて」
「はい、」


呼ばれて手を出せば小さな子供の名前の手がポンと乗せられる。そして手が離れた時に乗っていたのは子供の名前は保育園で作ってきたという折り紙で作った何か。


「えっと、これはなあに?」
「まま!こーれ、ぺけ!」
「子供の名前、ペケ作ったの?すごいね〜っ」
「でしょ!ぼく、ぺけつくったから!ままにあげる!」



歪ながらも折られたそれは、子供の名前いわく我が家の愛猫のペケJらしい。歪な丸はどうやら目らしい。お世辞にも上手とは言えないけれど、かわいい息子が作ってきてくれたものはとても嬉しいものだ。



「かわいい、ありがとう」



お礼を伝えれば、嬉しそうにえへへと笑って抱きついてくる。ニコニコしていても、元々の猫目は完全に父譲りのそれだけど全く、この甘えたは誰に似たんだろうか。気づけばとても甘えん坊な性格になってしまったなと思いつつ、かわいい我が子の甘えが嫌な親はいないはず。例外なくそれはあたしもそうで、ギュッと抱きしめる。



「せんせーがね、すきなひとにあげてってゆってた!」
「それでママにくれるのー?うれしいな」
「ぼく、まますきだからね!」



まあ、甘えてくれるほど好きでいてくれるのは嬉しい事だから良いかな。











「ただいま〜」


玄関からパパの声。仕事を終えて帰ってきたようだ。さっきまでペケと一緒に遊んでいた子供の名前は今は食い入るようにテレビに夢中。パパが帰ってきてもお構いなし、なのですっかり冷めてしまったご飯を電子レンジに入れてスイッチを入れてからお出迎えのために玄関へ。



「おかえりなさい」
「ただいま、子供の名前は?」


圭介とペットショップをやっているパパは締め作業までして帰ってくるからいつも少しだけ疲れた様子で帰ってくる。それでも仕事は楽しいみたいで、毎日聞く話で嫌な話はあまり聞かないのだけれど。


「今、テレビに夢中」
「そっか」


それでも仕事柄、休日出勤もある訳だから決まった日に家にいるわけではないパパは子供の名前と遊びたい気持ちもちゃんとあるみたいで、こうやって息子のこともちゃんと気にかけてくれる。けどそれはパパの気持ちであって子供の名前はどうなんだろうか。休みの日は一緒に遊ぶし好いているはずだけど、割り切っているというかこういうところはサバサバしているというか、保育園に行き始めるとこういうものなのかな、と思ったり。



「ねえ、名前」
「…ん?」


普段、子供の名前がいる時、互いのことをパパとママと呼んでいるから、こうやって名前で呼ばれるのは珍しい。付き合ってる時だって、名前さんって呼ばれることの方が長かったから、正直言って名前を呼び捨てで呼ばれるのは未だに新鮮でドキッとしてしまう。



「ち、ちふゆ…?」
「んー」


気づけば腰に手を回して抱きしめられていて、身動きができない。千冬の名前を呼んでも聞こえているはずで返事もあるのに動じない、というかすっとぼけてるようにも感じられる。



「明日って休み?」
「う、ん…、休みだけど」
「子供の名前は保育園だっけ」
「そうだね…?」


あたしの位置から千冬の表情は見えないし身動きも取れない。


「じゃあ、明日さ」


最近では子供の名前中心で行動しているせいで千冬とくっつく時間も減っているあたしとしては、こうやって耳元で千冬の声が聞こえてくるだけでもうむり、ドキドキだ。絶対、わざとだ。わざと耳元で話してる…でしょ…っ。



「ち、ふ」
「あーーーー!!!!!」



恥ずかしさで爆発しそう、そう思っていたら突然廊下に響き渡る声。それにあたしも千冬もびっくりして体がビクッと震えて停止した。何事かと思う反面、誰の声かは明確だ。



「ぱぱ!ままだめ!」
「子供の名前ッ」
「ままだっこ!」



テレビを見ていたはずの子供の名前がいつの間にか足元にいた。さっきの大声の瞬間にドタバタとやってきてあたしの足にしがみついて見上げている。



「子供の名前、テレビ見てたんじゃないのか?」
「ん!まま〜っ」
「だーめ、ママは俺の」
「んん!ままはぼくの!ぱぱはぺけ!」
「ペケってどういう意味だよ」



トントンと足元で飛び跳ねて抱っこと乞う子供の名前はちょっと泣きそうな表情。うん、男の子だからこんなことで泣いて欲しくないんだけど、うーん。抱っこしてあげたいのは山々だが、何故か子供の名前に張り合って千冬も離してくれないし。



「ままはぼくのことがすきなの!」
「ママはパパが好きなんだよ」
「むぅ…」
「ママはパパのお嫁さんだから、パパのだって、な」



もう恥ずかしいんだけど。千冬も年甲斐にもなくハッキリとこういうこと言うのやめてほしい。恥ずかしい、子供の名前は子供だから仕方ない。お願いだから子供に張り合わないでほしい。だから、そんな笑顔で同意求めないで…!



「っも、」
「うわぁあああああん!!!!ままっはッぼくのだもんんん!!!!」



結局、あたしが止めようとする前に子供の名前の方が先だった。決壊したダムのように大泣きしまい、ふっかけていた千冬もさすがにびっくりしてあたしのことを自由にしてくれた。そこからは、あたしが子供の名前を抱っこしてあやしてあげて、言い聞かせて…。本当に困ったものだ、大人気ない千冬も泣き虫な子供の名前も。


「子供の名前はママに似て泣き虫だな」
「…ちょっと、パパ」
「子供の名前、すぐ泣いてちゃ大好きなママ守れねぇぞ?」


聞き捨てならないことをサラリと言われて子供の名前の背中をポンポンとあやしながらも視線を千冬に移すけど、千冬は知らん顔。というより、あたかも聞こえてないようにスルーして子供の名前に語り掛ける。


「ぼくっ、ないてないもんっ」
「ホントか〜?」
「っうん、!」


千冬の言葉に乗せられて、ボロボロと溢れていた涙を袖口で乱暴に拭い泣いてないと豪語する。千冬によって、子供の名前の泣きもなくなったけど、そうなるならば泣かさないでほしいと思うが口にするのは水を差すようでやめておこう。



「それでこそ男だよな」



なーんて、千冬も満足そうに笑ってるし。



「見て見て、子供の名前がね、ペケ作ったんだって」
「へぇ、スゲェじゃん」
「せんせーがね!すきなひとにあげてね!っていってたから、ままにあげたんだよっ」
「…ふーん…ん?」
「だから、ままはぼくのだもん!」
「は?だから、ママはパパのだって」



結局、振り出しに戻るこのやりとり。正直言って、子供が二人いる気分でため息が出る。けど、これも幸せ故のやりとりだと思うと、ついつい表情が緩んでしまうのだから仕方ないのかな。



「ね、ペケ」



気付けばそばで寝ていたペケになんとなく同意を求めてみたら、ミャァと鳴く。


これが松野家の日常である。


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -