企画小説 | ナノ


テーマ:もしも、嫁が小さくなったら。


おはようございます!椎名ニキっす!
朝起きてご飯の準備してたら、めちゃくちゃスマホが鳴り始めたんすよね。画面見たら燐音くんだったし、なんか嫌な予感しかしなかったからとりあえず見て見ぬふり。

そしたら、トークの通知画面で「電話出ろ」「ニキ」「おい」って表示されてたっす。

もう、僕は今お腹減ってるから〜!

燐音くんも朝からなんなんすか!って思いつつ、返事するにも電話出るにしてもご飯食べなきゃやっていけないっすよ…!



できたご飯とおかずを並べて、さてといただきます!ってしようとした瞬間、共有スペースのここへ何やらドタバタと足音が聞こえてくる。


「おい、ニキっ!!!!」
「んもぉ〜なんすか!僕はこれからご飯食べるのに!」



足音の正体は燐音くん。普段なら、こんな足音立てて歩かないから珍しさ半分、慌ててるのは足音と声だけでも十分わかった。わかったけど、僕も今忙しいんすよ!胃袋にご飯入れなきゃいけないんすからね!そう抗議しようと思って燐音くんの方を振り返ってみたら、僕は持っていた箸を落としてしまった。


「燐音くん…」


空腹の感情が一瞬でも消えることがあるんだ、って後々に思ったっすよ。



「燐音くんの隠し子…!!!!」



だって、燐音くんの腕の中に抱えられた女の子がいたから…!


普段はふざけたり軽口叩いて相手を挑発したりしてるけど、実は生真面目だと思ってたんすよ。燐音くんに限ってそんなことないって思ってたのに。あぁ、クレビのリーダーにスキャンダル発覚ってなるんすかね?これ、名前ちゃんも大変なのでは…?うーん、…はっ。



「燐音くん、一応確認すけど。名前ちゃんっすよね?!相手」
「ァアッ?!」
「ヒィッ!怖いっすよ!脅し反対!」
「ばっか!何勘違いしてんだよ!」



ちゃんと周りに人がいないことを確認して聞いたのに。だってここは星奏館の共有スペース。運良く誰もいないけど、ここもいつ誰が通ったておかしくない。こんな危ない状況、僕でもわかるんだから、人目を気にしなきゃいけないのに、燐音くん思いっきりガン飛ばして来たんすけど!!!!



「う〜っ」
「ほら、泣いちゃったじゃないっすか!」



燐音くんの腕の中にいた小さい女の子がぐずったような声を出す。燐音くんが大きな声を出したせいっすよ、もう!僕の位置からじゃ顔まで見えないけど、この子何歳ぐらいなんすか…燐音くんたちやることはやってるんでしょうけど、いろいろぶっ飛びすぎっすよ。婚前のチュウもしないとか、あれ絶対嘘だと思ってたんすからね。




「っ、りんどこ…」



だからびっくりしたんすよ。燐音くんたち、やることはやってると思ってたし、いつかあり得る未来だと思ってたけど、燐音くんの腕の中にいた女の子は不安げな表情なのにしっかりと燐音くんの服を掴んでいた。名前ちゃんの面影を持った女の子が、だ。







「う〜…」



色々びっくりしすぎて、とりあえず作ったご飯たちを持って僕の部屋に移動した。あのまま共有スペースにいたら、本当に誰が来てもおかしくなかった。幸い、今日は平日の朝、と言うよりはブランチに近い時間。つまり、同室の弟くんもひなたくんも学校でいない。だからこそ、ここが一番安全だと思って戻って来た。ソファーにちょこんと座ったその子は相変わらず不安げな表情で縮こまってたりする。



「僕はニキっす!お名前は?」
「…名前」


燐音くんはさっきからダンマリ決め込んじゃうし、とりあえずと思って話しかけてみたら、僕は自分の耳を疑った。



「えっと、お名前は…?」



聞き間違えかと思ってもう一度尋ねてみる。



「名前…」



「…燐音くん?!?!」





ビクッと女の子の体が揺れてしまうほどの声をあげてしまった。あぁ、ごめん!驚かせたかったわけじゃないのに!むしろ驚いたのはこっちっすよ…!どういうことっすか!!!!





燐音くんいわく簡潔的に言うと、

「朝起きたら、名前がこの姿だったんだよ…」


と言うことらしい。



「そんな冗談、」
「ふざけたような話が起きてンだよ…、俺も訳わかんねェ」


ため息をついて、自分の顔を掌で覆いソファーの背もたれに身を預けて反り返る燐音くん。僕もそうだけど、燐音くん自身もこの現実を処理しきれてないらしい。



「年齢は4.5歳ぐらい。俺たちのことはわかってねぇ」
「えっ、中身まで幼児化してるってことっすか…?」
「おそらくな。記憶まですっぽりその時の年齢まで戻ってる」
「なるほど…」



えぇ、本当になんなんすかね。こんな、突然変異的なことどうして起きたんすか。燐音くんの言う通り、名前ちゃんは僕たちのことを覚えていなかった。名前を名乗った時も、「にきおにいちゃん?、」って首を傾げてるだけ。実際の名前ちゃんの方が年上だから絶対言わない呼び方。この子がまず本当に名前ちゃんなのか問題もあるけれど、こんなにもそっくりで面影があるし、何より燐音くんがこんな嘘を言うはずがない。




「名前ちゃん、美味しいっすか?」



こくんと頷いてくれてホッとした。

あれから燐音くんに聞けば朝ごはんもまだだと言う。だから、自分が食べるつもりだったご飯を名前ちゃんにも分けてあげて一緒におかずを突く。フォークで準備したらすっごい不思議そうな表情して見つめてて、燐音くんが使い方教えてあげてたんすよね。それ見て、昔が懐かしくなったっすよ。名前ちゃんや燐音くんと会ったばかりのこと。



「…これなあに?」
「それはウインナー、肉だ」
「おにく…」


加工食品をモノ珍しく見つめる名前ちゃん。一口食べれば「おいしい…」と呟いた。



「燐音くん、どうするんすか」
「考えてっけど、答えが出ねえんだよ…」



燐音くんは未だに浮かない表情。そりゃそうだ。大切な人がまさか幼児化して自分を認識しないなんて思わない。



「…おにーちゃ」
「ん、どした」
「おにーちゃんもりんねっていうの…?」



おっと、燐音くん。もしかして名前ちゃんに名乗ってなかったんすか?名前ちゃん、僕たちの話を聞いて燐音くんの名前を知った感じっすもんね。だから、不思議そうな、でも恐る恐るって感じで燐音くんを見上げている。



「あー、そうだな」
「あのね、名前のだいすきなりんもね、りんねっていうの」
「…そっか」
「名前ね、りんのおよめさんになるんだよっ、だからね、だからりんといっしょに、いなきゃいけないのに…、りん…いない…ぜんぶしらない…、」



名前ちゃんは燐音くんのことを燐音くんに対して話し始めて、最初こそ微笑ましいと思ってたのにそれも最初だけ。段々と目をウルウルさせて今にも泣き出しそうな雰囲気に僕はあたふたすることしかできない。



「えっ、ちょっ!」
「ん…ぅぅっ」
「ほら、」


あぁ、もう思いっきり泣いちゃう!そう思ってたら、燐音くんが名前ちゃんのことをギュッと抱きしめる。背中をポンポンと撫でてあげて、僕はこれが正解かわからないけれど、まるでお兄ちゃんってこういう感じなんすかね、って思った。



「名前が泣いてちゃ、りんね、くんに会えた時心配になるだろ…?」
「う〜」
「名前は笑ってる方が好きだからさ、母上もそう言ってたよな」
「…ん、名前、なかない…」
「エライエライ」
「…なかなかったら、りんにあえる…?」
「会えるって」



燐音くんの言葉に諭されて、名前ちゃんは段々と落ち着きを取り戻す。燐音くんの言葉を聞いて、腕の中で堪える様子も見せつつも気持ちを持ち直したらしく、表情はまだ完全に大丈夫ではなさそうだけど、目の色はしっかりとしていた。



「燐音くん、上手いっすね、さすが」
「うるせェな」


何も知らない名前ちゃんはキョトンとした表情で僕と燐音くんを見てるけど、燐音くんには僕の言いたいことが伝わったみたいで気恥ずかしそうに呟いた。



「おにーちゃん、りんとおんなじおいろ…」
「ん、そうかァ」
「ん、りんみたい、」


あ、やっと名前ちゃん少し笑ってくれたっす!安心したのか、心許したのか燐音くんに擦り寄る名前ちゃんのあどけない表情。


「りんもおにーちゃんみたいにおっきくなったらかっこよくなるのかな」
「あー…」
「ね、りんにあえたら、おにーちゃんにもおしえてあげるねっ」
「…あぁ」


燐音くん照れてる、ひたすら照れてるっすよ。



名前ちゃんは気づいてないけど、燐音くん、うっかり名前ちゃんのお母さんが言ってた言葉言ってて。これ名前ちゃんが言ってる燐音くんじゃなきゃ知らないはずっすけどね!




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