企画小説 | ナノ


※再会編時間軸・熱愛発表前
※燐音視点


コズプロの事務所に出向いて軽い打ち合わせをして今日の仕事は終了。持て余した時間をどうするべきか、悩んだ末に向かうのはいつもの場所だ。



「いらっしゃいませーって燐音くんじゃないすか」
「おうおう、お客さまにその反応はねェんじゃねェの?」



ニキがバイトしているシナモン。店内に入るなり早々、ニキは俺っちを認識するなり気の抜けた顔を浮かべやがる。適当に空いてる座席を探していたら、これは予想外だな。見知った顔を見かけて、俺はその座席の空いたところに腰掛ける。



「よう、王様くん」
「天城燐音先輩!」
「一人で寂しくお茶かァ?」



そこにいたのはKnightsの王様くん。テーブルには飲み掛けのティーカップが置かれており、一人ここでお茶をしていたのが見てわかる。


「今日はOffなので、新しいSweetsを開拓しに来たのです」
「へぇ、そうかい」
「天城燐音先輩もお一人ですか?このあと、こはくんがいらっしゃる予定ですがご一緒にどうでしょう」
「こはくちゃんも来んのかよ」



休みの日まで一緒とか仲良しだねェ。ってそれは俺にも言えることか。ニキのバイトしてるところに来て、この後こはくちゃんも来るとか、そのうちメルメルも来るんじゃねェの?って思ってしまう。暇人揃って、休みの日まで一緒に過ごすとか俺らはいつからそんなユニットになったんだかねェ。



「俺っちは甘いもんよりしょっぱいものが食いてェな」
「そうですか、オススメのSweetsに興味がありましたら是非聞いてください」



SSだったり一悶着もあったが、トータル的に名前を通してこいつらとの接点も増えたなァ。普通に俺と話してくれんのも名前のおかげかもしれねェな。




「なっ、」



ニキに適当に飯を作ってもらって食っていたら、王様くんが突然声を荒げる。見ればスマホを両手に握りしめて、ワナワナと震えてんじゃん。



「レオさんッ…!!!」



どうやら、レオちゃんが何か仕出かしたらしい。Knightsも賑やかだよなァ。名前が世話になってるだけあって、普段から話も聞いてるけど、全員個性バラバラで楽しそうだよな。騎士道ユニットで売ってる癖に、中身全然ちげェのもまた面白いところっしょ。今も王様くんは完全に気を取り乱してスマホをカタカタとタップしてるから面白すぎっしょ。後でこはくちゃんに見せてやるために、王様くんの写真を自分のスマホでカシャリとタップする。俺が傍でカメラ起動してんのに、気付かないとか集中力ありすぎっしょ。なーんて思っていれば、俺のスマホにもメッセージの通知が来てんじゃん。


アプリを起動してみれば、メッセージの送り主がレオちゃんだった。複数のメッセージ通知が来ていて何かあったっけ、と思いつつレオちゃんのところをタップする。タップする直前に表示されていた、メッセージの数の横にある最後のメッセージ内容が正直気がかりだったけど。


見た方が早いだろう。


と思って開いた画面を見て、俺は一瞬にして息が詰まる。



レオちゃんから送られてきたメッセージは写真と文面。写真には名前が写っていて、名前のこの格好は今日のもの。朝、家を出る時にしていた格好だ。そう言えば、今日は買い物に行くと言っていたがレオちゃんとだったのか。名前が楽しそうに笑っていて、くっそ可愛いなとか思ったのも一瞬のこと。複数ある写真に違和感を覚える。



「…、は」



スクロールして写真を見て気づいたのは、名前がカメラに向かって写る写真の中、流れてきた一枚の写真。レオちゃんとぴったりくっついて仲良く何処かのカフェのドリンクを持っているツーショットだ。名前 が二つドリンクを持っているのは多分一個はレオちゃんのもの。名前の顎を掴んでカメラ目線のその姿は照れた様子もなければ、ここで気づいたのは二人とも普段通りの姿であることだ。




「んだよ、これ」



名前もレオちゃんもアイドルなのに。普段通りで街中歩いてるワケ?俺と名前が一緒に出歩く時は、とことん変装に気を遣っていて堂々と外も歩けねェっていうのに。

レオちゃんと誤解される心配はねェって?

それとも、レオちゃんなら良いってこと?


訳がわかんねェ。

とりあえず、レオちゃんに一言、メッセージを送りつけて名前とのメッセージ画面を起動させる。最後にやったやり取りは今日ではない。タップして、何してんのと文字を打っては消した。名前が今日買い物行くことは聞いていたから、このメッセージは違うだろう。


適当にスタンプを探して、ジッと見つめるスタンプを送ってみた。すぐに既読にならないのはわかっていたけれど、胸の中がザワザワするから早く見てほしいと心の中で何度も願う。


きっと今、名前はレオちゃんと楽しくやってるからスマホを見るはずがない。


別に名前を疑う訳でもねェし、レオちゃんには恩もある。

けど、こんなの見せられて余裕があるほどの大人でもない。この写真の意味はなんなのか、名前は何で買い物としか言わなかったんだろうか、とか余計なことまで考えてしまう。


何よりレオちゃんから送られてきた、「名前とデート中〜!」って言葉がすげェ面白くない。







あれから、ムシャクシャしながら残った飯は食った。こはくちゃんが来るなり、王様くんが「こはくん遅いです!!!」なんて声を荒げていたから、やっぱり気性が荒い騎士様だと思うけれど、理由はそれだけじゃないはず。多分、王様くんの方にもレオちゃんからのメッセージが来ていると見た。あえて王様くんからは何も言われなかったけど、王様くんにスマホを見せられたこはくちゃんが目を見開いて俺っちの方を見たからそう言うことだろう。

予想通り、何の縁かメルメルもやってきて、カウンター席の方に座っていたが、こはくちゃんがメルメルに何かを耳打ちしてやがって、まじめんどくせェな。はぁ、こんな日じゃなきゃ良かったのに。







名前からの返事が来る前にシナモンから出た。


ザワザワとする気持ちは落ちつかねェ。

名前からの連絡は未だにない。


パチンコしに行くか、酒を買いに行くか、大人しく帰るか。多分、どれをしたって気は紛れないだろう。早く名前に会いたい、この気持ちを落ち着かせてくれるのは名前しかいないからだ。



ほんっと、名前絡みになると余裕ねェな…。



ハァ、と息を吐いて空を見上げる。日の落ちる時間も早くなったこの時期、辺りも気付けば暗くなって、空気がヒンヤリとしている。



ボーッと立ち止まっていれば、スマホの通知音が耳に入る。確認すれば名前からだった。



「今から帰るよ」



と簡潔的な内容で、俺はすぐに迎えに行くと返信した。









名前から現在地が送られてきて、ここから迎えに行けばすぐにでも鉢合わせられる距離だった。



「あ、燐…!」



朝も見たはずの顔なのに、名前の嬉しそうな顔を見て俺はすげェ久々に会ったような気持ちにさせられて、ここが外だって言うのに関係なく名前の腕を引いて抱きしめた。



「…燐?」



腕の中で名前の不思議そうな声がする。



「レオちゃんと距離近ェ」



自分が思ったよりも低い声だった。



「買い物、二人でって聞いてねェんだけど」



名前がただレオちゃんと買い物行ったぐらいなら、多分後から知ったってここまでは思わなかったと思う。



「しかもデートって何」
「へ、デート…?」



問題はここだ。名前は不意を打たれた声を上げているから、本人もわかってねェってことか。名前はそんなつもりなくても、レオちゃんはちげェんだけど。モゾモゾと動く名前の澄んだ瞳と目が合う。



「レオちゃんからメッセージ来た」
「レオくんから…?」
「二人とも普通に出掛けてんの…いっつも」




名前もそれは知らなかったらしい。これまた不思議そうな声色で俺を見つめる。昔から一緒にいたのに、故郷なら堂々と横に並べたのに、外に出たから、俺たちがアイドルだから、自由が利かないこの世界が今何よりも恨めしく思うのは皮肉なものだ。


何よりも欲しかった世界は何よりも息苦しい場所に変わる。



「燐、嫉妬…?」



あぁ、そうだよ。名前に関しては俺はいつだって余裕がなくなるんだ。バレてるのに、伝わってるはずなのに、俺はそれを言葉にするのが怖くてギュッと腕に力を込める。



「あたしだって、あんずちゃんと出かけるの知って面白くなかったんだからね」



名前の言葉に息を飲む。



「だから、レオくんとデートした」



少しだけ棘のある言葉は名前からしたら珍しいもの。あー、ヤバい、これは正直しんどいんだけど…。



「うそうそ。今日はレオくんの妹ちゃんへプレゼント買いに行っただけだよ」
「…」
「燐だけだから、」



なんて、さっきまでの雰囲気は冗談だと。名前の持っている袋がカサリと音を立てるし、いつもの優しい声色で囁く名前の声がする。俺からしたら、冗談だって聞きたくないんだけどな。



「燐、帰ろう。おうちに」
「ん…」
「あたしの居場所は燐のところだから」



名前の指が俺に触れる。俺より少しだけ高い体温が、指先から伝わってきて此処に名前がいるという安心感を与えてくれる。


名前は自分の居場所が俺のところだと言ってくれるけれど、俺からしたら名前がいるから糧になる。


だからこそ、名前は俺のだって言ってやりてェよ。


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