企画小説 | ナノ


ハロウィンが過ぎた頃から街中の雰囲気はガラリと変わる。イベントというものを知ってから毎年思うけれど、街中の移り変わりはとても早い。正月が過ぎればすぐにバレンタイン、そして節分やホワイトデー、卒業式や入学式とことあるごとに、理由をつけて街中の色も変わっていく。


12月に入る頃、これから年末の特番撮影や怒涛の音楽番組生放送の出演でお互い忙しくなるのはわかっていた。だから、



「すごいキレイ…!」



やってきたのは、とある街中の自然が広がる公園。昼間に来た時は、緑が広がっていてお散歩している人や犬と一緒に遊ぶ人を見かける静かな場所だ。ここも例外ではなく、季節のイベントに合わせて自然の樹々が色鮮やかな電飾が施されていて、夜の時間はすごく素敵なイルミネーションを魅せてくれる。



「普段と全然ちげェな」
「話には聞いてたけど、実際見ちゃうとすごいね」



ESビルを後にして、今日は少しだけ寄り道をすることに。だってこれを逃したら、次はいつ予定が合うかもわからない、それぐらいお互いのスケジュールは過密になっている。少しだけ良かった点といえば、まだ時期も早いおかげでこのイルミネーションを見に来ている人の方が少ないということだった。


念のため、帽子に伊達メガネをかけて、燐は黒いマスクをして一応カモフラージュ。でもやっぱり折角の外だし、燐との一緒にお出かけだし、人はあまりいないことも確認した上で燐の腕にくっついて歩きながらイルミネーションを楽しむ。



「燐の手、冷たい」
「さみぃから仕方ねェだろ…」
「そういうところが、あたしと逆だよね」



ジャケットの上着に両手を突っ込んでいる燐の手にあたしもお邪魔して触れればひんやりとした手の熱が伝わってくる。燐は寒い外にいたからっていうけど、末端冷え性だと思う。逆にあたしは冷え性とかないから、こうやって燐の手に触れて少しでも熱が分けてあげられたらなって思ったり。




「冬はさみぃ」
「冬だからね」
「熱が足りねェ」
「帰る?」
「まだ帰らねェ」



寒いのが苦手な燐に無理してまで外に付き合わせるのもな、と思って聞いてみたけれど燐は帰る気はないみたい。寒そうなのに、と思っていればスリスリと頬を擦り寄せてくるから摩擦熱で暖を取ってるのかなと思ってしまった。




「この先にね、大きなクリスマスツリーがあるんだよ」



夕飯もこれからだし、明日からリハと練習と特番収録とか、年始特大号の雑誌の撮影とか。だからこそ、元々長くいるつもりもなかったから、あたしは目的地であるイルミネーションの目玉であるツリーへと誘導する。


植えられた花壇の花も輝いていて、かと思えば頭上をクリスタルビーズがキラキラと光輝くトンネル。それを潜りながら、チラリと燐を見れば燐の顔もイルミネーションに照らされてキラキラしてたのがおかしくて、つい笑ってしまう。





「おっきい…!」



目玉と聞いていたツリーはすごく大きなものだった。ここにこんな木があったらことも知らなかったあたしは、予想外の大きさに息を飲む。燐もそれは同じだったようで「すっご…」と声を漏らす。クリスマスツリー自体が下からライトアップされ、ツリー自体も装飾が施されていて手の込みようが純粋にスゴいなと思ってしまう。



「名前はさ、」
「んー?」



どんなにキレイなものでも、屋外でこのようにあると、育った環境のせいか準備の過程とかもつい考えてしまう。人の手でここまでやるしかない訳だから、準備した人たちは仕事とは言えお疲れ様とお伝えしたい。


そんなことをぼんやりと思いながら、その人たちの苦労の上にあるイルミネーションの輝かしい美しさに見惚れていれば、燐に名前を呼ばれて若干上の空って感じで返すと改めて「名前」と呼ばれるもんだから、視線をずらしてみればいつのまにかマスクを外した神妙な面持ちの燐と目が合う。



「ツリー見て浪漫ちっくって思うタイプ?」



気づけば顎に手を添えられていて、まるで目線を外すのは許さないと言われているよう。



「俺を見てる方が浪漫ちっくなんじゃね?」



あまりにも真剣に言うもんだから、喉の奥で何かがつっかえって声が出ない。





「…なーんて、今ドキッとした?」





ニッとイタズラな笑みを浮かべる燐を見て、そのまま軽く触れるだけのキスを一つ。ここでやっと一瞬だけ自分の思考回路が止まっていたことに気付かされる。




「名前、」




あたしが全然反応しないもんだから、燐は不思議に思ったのか再びあたしの名前を口にする。全部全部、後手後手になってから脳内処理が追いついていくぐらいには、あたしの反応全てが鈍っているみたい。だから、やっと理解できてからボブッと燐にギュッと抱きついて顔を埋める。




「ドキッとした、」



燐に抱きついたまま見上げれば、覗き込むようにしていた燐と至近距離で目が合う。燐に聞こえるように、燐にだけ聞いてもらえるように囁けば燐の目が少しだけ見開いた。




「って言ったら、燐もドキッとしてくれる?」



前に言われたことがある。イルミネーション観に行きたいんだよね、って話した時。燐といるときにムードとかってあるのかって。イルミネーション見に行くなら、色仕掛けとか上目遣いの一つでもやってみれば?なんて。



あたしだって芸能活動している訳だから。



できないなんて言わないよね、と言われてその時は何も返せず、何が正解かもわからずいろんなものを飲み込んだ。


昔から一緒にいた燐に今更すぎるかもしれないし、やったところでって思う部分もあるけれど折角だからたまにはこんな日があったって良いのかなと思ってやってみただけなんだけど。実際、燐の反応がなくって逆にやらない方がよかったかな…って考えが頭をよぎる。後悔って言葉なだけあって、後から来るもんだから。




燐と目線を合わせているのも段々居た堪れなくなってきて、自ら目線を外して再び燐で顔を隠す。イルミネーションのムードに飲まれ過ぎたかも…なんて思っていたら、背中にギュッと力が込められて燐が腕を回したのが伝わってきた。



「…燐…?」
「おま…まじさァ…」



なんとも言えない気持ちを絞り出したって感じの声。ギュッてされてるから燐の顔は見えない。モゾモゾと動こうとしても、力が込められてて動けない。燐の胸元に耳が押し当てられる形になった時、燐の鼓動が伝わってくる。



「名前…それはずりぃ…」
 


やっと見れた燐の顔は歪んでいるけれど、あたしが何か嫌なことを言ったからって感じではない。その証拠に暗いながらもわかる、燐が照れていると言うこと。その証拠に燐から伝わる鼓動が早いからだ。



「燐もずるいから、おあいこ」



だってドキッとさせられたのは本当だから。

一緒にいる時間が増えたって燐はいつだってかっこいいし、大好きなんだもん。それだけでも十分ズルい、なんて本人には言わないけれど。


今回は少しだけ感謝かな、ナルちゃんと泉くんたちに。


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -