男の子と旦那




「普段から仕事で忙しいのはわかってる…けど、弟ができてから母さんは弟のことばっか…、みんなだって弟のことばっか…」


ポツポツとリンくんは語り出す。


「久々に家にいたと思っても、俺の話を少しだって聞いて欲しいのに気づけば弟は泣くし呼ぶし、話だって聞いてくれない。弟なんて…」



気づけばグッと手を握りしめているリンくん。顔は俯いてしまって見えないけれど、



「つまりただ単に弟に妬いてンだろ」



燐の言葉にバッと顔を上げる。


「…ッ兄だからって何で我慢ばっか…ッ!」



「お兄ちゃんだからに決まってんだろ」




「お前だって小さい頃があったンだろ。その時、テメェの母親は見てくれてなかったか?ちげェだろ。弟はお前より、小さいんだから同じように思うなよ。それでなんだよ、全部弟に取られたと思ってンのか?」
「…それは」
「じゃあ、そばにいる優希はなんだよ。今だってずっとお前を見てンだろ」



次から次へと燐から出る言葉に、リンくんは押し黙る。



「お前の名前はなんだ、だれがつけてくれたんだよ。親からだろ、親が初めてお前のためにつけてくれたものだろ」


正直、燐がそんなこと言うとは思わなくて驚いた。それはリンくん自身も同じようで、目を見開いたかと思えば、ゆらゆらとその瞳は溢れそうなほどの涙を浮かべる。


「弟は自分より小さいんだから、お前がそんなんでどうするんだよ。そんなんだと、本当に疎まれてそれこそ一人になっちまうぞ」



燐はリンくんの頭をグシャリと撫でる。それをきっかけにリンくんの瞳からポロポロと涙が流れた。初めて演技ではないリンくんの泣く姿。年相応の男の子として声を上げて泣いた姿を見て、本人には申し訳ないけれど、あたしは心のどこかでホッとしてしまった。












あれからリンくんは泣き疲れてご飯も食べないまま寝てしまった。今日一日、慣れない生活な上にあたしのスケジュールに付き合ってもらってたわけで、いろいろと緊張もあっただろう。ご飯は起きてからでも問題ないので、とりあえず今はそっと寝かしてあげることにした。



「寂しがってるのは知ってたの。リンくんの弟は体が弱くてね、熱出しちゃって。いっつも、構ってあげられないことをお母さんも気にしてて今回あたしに頼んできたんだ」



涙の痕をそっと撫でながら、あたしは今回の件を話し出す。


リンくんとは、リンくんのお母さんと仕事をきっかけに知り合って、リンくんのことも知ってて、弟くんが生まれるまでは割と会う機会もあったから知ってるんだけど、昔はもっと素直に笑う子だったんだけどね。



「あたしじゃ、どうすればいいかわかんなかったから、燐の言葉には驚いちゃった」
「…話聞いててよ…、弟ってものに固執してンなぁって思ったからなァ」
「そっか…。あたしは弟も妹もいないからわかんないけど、燐にもそういう時ってあった…?」


隣に座る燐に尋ねてみれば、燐はふっと笑みを浮かべてぼんやりと彼方を見つめる。



「俺の場合はみんな次期君主で構ってきてたからなァ…。どっちかってーと、一彩の方が気になってたけどよ…」
「そっか…」


でも、ひーくんはそんなの気にしてなかったと思うよ、と呟けば燐はケラケラと笑いながら「だろうな」と言った。



「まっ、ずっと俺の横には優希もいてくれたからそんなの思う理由がねぇんだわ」

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