男の子と弟





事務所に寄って、マネージャーと打ち合わせしたりしてる間、リンくんは横で静かに待っていてくれた。リンくんのことはマネージャーも知ってるので特に何も言われなかったのは正直助かる。打ち合わせと言っても、簡単なスケジュール確認だったから。そのまま事務所を後にして、今日はリンくんもいるしこのまま帰路に着こう。


「リンくん、この後スーパー寄って良いかな」
「優希の好きにすれば」
「じゃあ、寄らせてもらうね」


笑わなくても聞けばちゃんと答えてくれるだけ良いかな、と思う。決して嫌われてはいない確信はあったし。ちょっと言葉遣いもあれだが全然許容範囲だから良しとしよう。



「姉さん!!!」


ESビルを出たところで聞き慣れた声が耳に入る。名前を言われてるわけではないのに、これがあたしに対しての言葉ということはすぐにわかったため振り向こうとするが、その前に後ろから勢いよく体重がのしかかる。


「っわぁっ、ひーくんっ」
「ウム!姉さん!会えて嬉しいよっ!」


やっぱりそうだった、という思いと急には危ないよ、と思うがいつもの眩しいぐらいの満面の笑みを見てしまったら、ついつい許してしまいたくなるのがひーくんの良さだろう。かわいく眩しい笑顔はいくつになっても、こちらの気分を癒してくれる。


「姉さんは今から帰りかな?」
「うん、そうだよ。今日はちょっといろいろあってね」


ひーくんの質問に答えながら、チラッと自分のそばにいるリンくんに視線をずらせば、ひーくんもあたしの視線につられてリンくんを見た。リンくんといえば、少しだけ目を見開いて驚いていた様子で、あたしの袖口をギュッと握りながらひーくんをパチクリとした目で見ている。


「…優希の弟…?」
「うん、弟かな」
「僕は天城一彩だよ!君の名前はなんだい?」


弟という言葉を聞いて、リンくんは一気にムスッとした表情になってしまった。それに気づいてないのか、気にしてないひーくんと言えば、リンくんに握手を求めているが、プイッとそっぽを向いてしまう。


「えっと、リンくんって言うの」
「ウム!兄さんと同じ名前だね」


ひーくんは、リンくんの反応にあまり深く気に止めず、むしろ名前の方に食らいつく。むしろ、リンくんの方が今の言葉を聞いてピクリと反応を示す。


「そういえばさっき兄さんに会ったんだけど、兄さんまた逃げてしまったんだ」
「また、ひーくんが大声で呼んだからじゃないの…?」
「うーむ、兄さんに愛してると伝えたかっただけなんだけどね」


いつ何時だってブレないひーくんに思わず笑みが溢れる。…ボソリと呟かれた「バカみたい」って言葉を聞くまでは。


「優希にも突然飛びついて、大声でそのお兄さんとこ行ったり、そうやって気を引いてるつもり?」
「リンくん…」
「僕はそういうつもりは」
「弟はそういうもんだろ…」



リンくんの言葉はとても小さいものだけど、あたしはそれを聞き逃さなかった。ギュッと握られた袖口、視線をずらしてどこかを見つめる目。あたしはリンくんの気持ちを考えると、どうすればいいのかわからなくなるけど、こんなんじゃいけないと思って必死に頭の中を回転させる。ひーくんは多分困ってるだろうけど、ここは本当に申し訳ない。



「リンくん、行こっか」
「ん…」


あたしはリンくんに気づかれないように呟いた。


「ひーくん、ごめんね…」

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