男の子
「優希ちゃん、久しぶり」
「こんにちは、お元気ですか?」
それはまだ燐と再会する前、仕事で一緒になったとある女優さんと久々に会った。年齢的にもこの業界としてみても、先輩にあたる人でいろいろとお世話になったなあと懐かしくなる。
今日は久々に連絡があったこともあり、約束をして会ってるのだが、多忙な人だと記憶してるため、わざわざ連絡をくれてあたしと会う約束をしたのは何でだろうと不思議に思っていれば、それは会ってすぐに解決した。
カフェシナモン、そこでメニューから選んだ料理たちを器用にトレンチに乗せてニキくんがテーブルまで運んできてくれた。
「はいっ、サラダに、ハンバーグとジェノベーゼっす!」
「ありがとう、ニキくん」
「優希ちゃん、いつもより多いっすね」
「うん、今日はリンくんもいるからね」
テーブルに料理を乗せながら、ニキくんは不思議そうな表情を浮かべる。それもそうだ、明らかに普段のあたしが食べる量よりも多いから。
その理由を述べれば、またニキくんは首を傾げて訳がわからないと言わん表情になる。
「…燐音くん…?」
「ちっげーし、」
「えっ、誰っすかこの子…!」
さっきまで、座席にいなかった彼、リンくんが戻ってきた。ニキくんはリンくんを見るなり驚きの声を上げてるし、リンくんはジト目でニキくんをひと睨みして、あたしの向かい側に腰掛けた。
「おかえり、リンくん。迷わなかった?」
「ただいま、大丈夫。わかりやすかったからへーき」
リンくんは、7歳のちょっぴりクールな男の子だ。子役経験もあり、親が芸能人ということもあってか、割としっかりしてるな、と思うことが多い。今だって、慣れない場所なのに一人でお手洗いに行って戻ってきたのだけれど、返す言葉がどれも落ち着いている。
「優希、食べていい?」
「うん、足りなかったら好きなの頼んでいいからね」
リンくんはいただきます、と小さく呟いて頼んであったハンバーグにナイフを入れる。ハンバーグを選択するところとか、キレイに食べているが頬張る姿は年相応で可愛いなと思わず頬が緩んでしまう。
「この子、似てないっすけど、どんな関係なんすか…?」
気づけば、ニキくんはお水を足しに来てくれてて、お水をコップに注ぎながら不思議そうな表情を浮かべている。
「リンくんはお世話になってる人のお子さんで今預かってるの」
「そうだったんすね…、てっきりこんな大きな子供がいたのかと思ったっすよ〜」
ニキくんの見当違いな予想に本人は「なはは〜」なんて笑ってるけど、あたしからすればそんな風に笑えず、なんとか笑顔を作る。うん、こんな大きな子供がいたら、いろいろ問題だもの。
「優希、」
「うん?」
「優希のもちょうだい」
「うん、いいよ」
「それ、食べさせて」
ニキくんと喋っていれば、動かしていた手が気付いたら止まっていてこちらを見ている。リンくんが指したのは、あたしが頼んでいたジェノベーゼで、言われたようにフォークに巻き取って口に入れてあげる。あーんと、口を開けていてそのままパクリと口に含むと咀嚼して「まあ、悪くないね」なんて呟く。
「…最近の子ってこんな感じなんすかね…」
ニキくんは顔を引き攣らせていたので、多分リンくんのキャラに色々思うところがあるのだろう。まあ、わからなくもないが、あたしからすれば仕方のないことなので「うーん、どうだろうね」と濁しておいた。
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