ひとりぼっちの夜



夜はきらい、

違う、一人の夜がきらい、

みんなが寝静まって一人だけの時間が増える。そうすると、いろんなことを考えてしまってた昔の習慣が忘れさせないとでも言うかのように、ふとした瞬間ジワジワと内側から侵食してくる。


昔、月永家に保護されてから過ごしてた時間の中で、夜眠れないことが多くて空を見上げていたことをレオくんに気づかれたことがある。あの時は、もう戻れない里のことやもう会えないであろう燐たちのことが辛くて寂しくて悲しくて居た堪れなかった。いつだって一緒に過ごしてきて、その先の未来もずっと一緒だと思ってたから、それが突然閉ざされて、いや、自分の手で手放したことにより先の未来がわからなくなってたあの頃。

自分で選んだ道だから、泣いちゃいけないと思って涙は堪えた。だからいつだって空を見上げて少ない星を見て。あぁ、故郷の空はもっと星が見えるのに、とか燐たちのいる空はどっちに続いてるのかな、とか思ってた。


「りん…」



名前を呼んでも返事はない。だってそばにいないのだから、届くはずがない。虚しくも消えた呼び声は、また自分自身を悲しくさせるには十分だ。


そんな気持ちも、また燐と会えてそばにいることができてから、なくなったと思ったし、なくなると思ってた。


けど、染み付いたこの気持ちを完全に拭い去ることはできてなくて、気づけば自分の中での恐怖に変わっていた。



あぁ、またあの時みたいに離れることがあったらどうしよう。

燐に手放されたらどうしよう。

燐に他に好きな人ができたら。


ずっと一緒って言ってても、未来がどうなるかなんてわからないことはわかってる。人の気持ちだって、どう変化するかわからない。


自分の中の燐に対する感情の大きさを実感するたびに、怖くなる。同じアイドルをしてあて、たくさんの人と触れ合ってるあたしたちは里の中にいたあの頃とは違う。触れ合うもの、出会うものが格段に増えたのだから。


それがより、あたしの中での不安を煽り、凛にだって燐の生活があるのだから、と気持ちを切り替えようとしてもかき消せない。



ベッドの上にいる赤くもふもふとしたキツネのぬいぐるみを抱きしめる。以前、プロデュースにてパーカーなどを作った際に一緒に作ってもらったキツネのぬいぐるみ。動物モチーフって、犬や猫、うさぎが多いけど、と言われる中、キツネがいいと頑なに意見を曲げずに通したのは、賢くて好奇心旺盛なところとかも含めて燐みたいだったから。


燐が来れない日には、こうやってキツネのぬいぐるみを抱きしめて目を閉じる。少しだけ、気が紛れて眠りやすくなった。






まだ夜更けだということはわかるが、何故か意識が浮上する。ギュッとぬいぐるみは抱きしめたまま、重たい瞼をうっすらと開けば、寝る前にはいなかったはずの燐と目が合う。覚醒してない頭でボーッと燐を見つめていたら、燐はスリスリと優しくあたしの頬を撫でていた。


「…起こしちまったなァ」
「…ん…りん、…」


段々と浮上する意識の中、こんなタイミングでと後々なるが寝る前に抱きしめてたはずのキツネが腕の中にいるか不安になって、腕をもぞもぞと動かせちゃんとそこにあったことに安堵する。自分の腕の中で一緒に布団にくるまってたこともあり、体温が伝染して同化して一瞬でもわからなくなっていた。安心したことにより、改めて腕の中に抱きしめ直して、顔をすこし埋めれば横に並んで寝そべるだけだった燐の腕によって次はあたしが抱き寄せられる。


「…りん…」
「ン〜…?」
「…りん、」


ちゃんと開ききらない瞳の中で、何度も呼べばちゃんと返事をしてくれる、優しい声でまるであやすように。それがまた心地よくて、だからこそ胸の中に広がる思いが気づけば口から目からポロポロと溢れてくる。


「りん…はなれちゃやだ…」
「…ん」
「り…、そばにいて…」
「優希…」
「…こわい…」


怖いんだ、またあの寂しさ、苦しさはもういやだ、夜が怖い、一人の夜が怖い。燐が横にいない生活が怖い。ずっと一緒だった燐がずっと一緒が当たり前だった燐を守るために手放した現実はすごく辛かった、自分勝手だってわかるけど、あたしはそれ以上に怖い、また戻るのが怖いんだ。


「…俺はここにいるから、離れても戻ってくるからよォ…。なっ、優希」
「ん…」
「イヤな夢でも見たのかァ…?それとも不安になっちまった…?優希は寂しがり屋だもンな」
「り…、」


ポンポンとあやすように布団の上から軽く叩かれるリズムがウトウトとさせる。困ったように燐が笑う声が耳に入るけれど、変わらず瞳は重くて思うようには開けられない。けど、わかるのはすぐそこに燐がいて、チュゥっと瞼にキスをしてくれたこと。


「俺も優希いないとダメだかンな…だから一緒」
「…ぃっ、しょ…」
「目が覚めても俺がここにいっから、もう寝ような」
「ぅん…」
「優希も不安だろうけど、俺だって」



微睡みの中に落ちていく中で、燐が何かを言った気がしたけど耳に入る前にあたしの意識は落ちてしまった。最初に眠りについた時とは違って、胸の中に占める侵食していたものもなくなり、すぅすぅと眠りにつくあたしを安心したように燐が見つめてたこととか、溢れた涙をそっと舐めて「しょっぱ…」なんて言っていたこととか、既に意識のないあたしは知らなかった。

だから、目が覚めたとき、目の前に燐がいて昨晩のことは正直意識が混濁していたこともあり夢かとも思った。燐も目が覚めてから何かを言うわけでもなかったので、不思議に思っていたあたしの表情で何かを感じ取ったのか、燐に朝からギュッてしてもらえて結局どっちでも良くなったんだけどね。

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