1/4の出来事
「ひーくん」
物心ついた時から姉さんは、そう言って僕をギューっと抱きしめてくれた。姉さんのギューっは、温かくて心地よくて大好きなんだ。
姉さんは、僕のことを「ひーくん」と呼んではキラキラした笑顔でギューっとしてくれる。だから、兄さんが忙しくてそばに居れなくても、父さんとの稽古で失敗した後も、おはようの時もおやすみの時もどんな時に会えば、姉さんの笑顔とこのギューっでいっぱいの幸せをもらってた。
だから、姉さんがいなくなった時、僕は理解できなかった。
なんで、姉さんはいなくなっちゃったの?
なんで、姉さんが悪く言われてるの?
姉さんが、悪いことしたの?
兄さん…兄さん…、
兄さん…兄さんは何か知ってるなら教えてよ…
ふと意識が浮上した感覚がした。
撫でられているのは僕の頭…?ふわふわしてる意識、すごく心地よくてずっとこのままでいたい気もする。けど、それだけじゃ、もったいないような、このままではいちゃいけないような気がして、重い瞼をそっと開いた。
「お寝坊さんだね、」
視界に入ってきたのは、さっきまで思い描いていたものより大人びた姉さんの顔。ふふっと笑みを浮かべたまま、姉さんは僕の前髪をそっと撫でている。ぼんやりとそんな姉さんの表情を見つめていれば、段々と覚醒してくる頭。
そうだ、僕は寝ていたんだった。
確か、藍良に「ヒロくんはちょっとここで優希さんと待ってるんだよぉ〜!!」なーんて言いつつ、使われていない応接室で待機命令。僕は訳もわからず、どうしてなんだろう?と思っていたら、姉さんに促されるまま応接室のソファーに座ったんだった。そのあとは、他愛もない話をしてたんだけど、
(話しながら、久々に姉さんと一緒にいれたのが嬉しくなって、ギューってしてもらいながら頭を撫でてもらってたら心地よくって眠くなったんだった)
そして目が覚めたら、姉さんの膝で寝ていたという。
姉さんの手や体温は心地よい。
多分、物心つく前から知ってるからこそ、安心できるんだと思う。つい、気が緩んでしまう。
(こんなこと、兄さんにバレたらまた言われるんだろうな)
「燐なら、今日ぐらい譲ってやるか、だって」
「…兄さんも知ってるの?」
「さっき様子見に来てたからね、ちょっと面白くなさそうにしてたけど」
そう言ってクスクスと笑う姉さん。兄さん、見たのに起こさなかったんだ、なんでだろう?最近では僕が姉さんにギューってしてもらうと離れろ、ってよく言うのに。
「ひーくん、ホントに気付いてない?」
「なんのことだろう?」
「今日はひーくんが主役の日だよ」
「僕が主役…?」
僕が主役ってどう言うことだろう?藍良もそう言えばおんなじようなことを言ってた気もするけど。
「今日はひーくんが生まれてきてくれてありがとうって日だよ」
あぁ、そうか。
「姉さん、覚えててくれてたの?」
「忘れないよ、可愛いひーくんの誕生日だからね」
起き上がった僕の頬をそっと両手で包み、姉さんのおでこがコツンと僕のおでことくっついた。
「ひーくん、お誕生日おめでとう」
何年ぶりだろう、
久々に聞いた姉さんからのおめでとう。昔は毎年もらっていたこの言葉も、姉さんがいなくなってからなかったから、久々で。だからこそ覚えていてくれた嬉しさと胸がポカポカしてくる。
「ありがとう、姉さん」
僕は兄さんの弟に生まれて、姉さんに出会えて幸せだ。
2021.01.04
(一彩はぴば!)
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