寂しさ



※燐音視点
※幼少期


最近、優希と会えてない。同じ里の中にいるのに、こんなになかなか一緒に会えないのは初めてかもしれない。稽古や狩りだったり行くことが増えたけど、それでも戻って来ればいつだって優希が出迎えてくれてた。


(今日もいない…)



一彩も大きくなって、俺と同じように稽古などをするようになった。それでも空いた時間は一緒に木の実を取りに行ったりと自由に過ごせる時間がある。

俺は君主を決められた立場だけれど、優希だって次期神楽の使い、言わば舞姫だ。母親は常に儀式、祭典では中心核として舞を踊ってる姿は見かけるし、優希もその娘としてその立場を引き継がなければならない。となれば、必然的にそのための稽古や修行が多くあるのは重々承知なんだろうけれど。



「優希…」



いつだって、俺の姿を見つけたら駆け寄って抱き着いて笑いかけてくれる優希が日々の中での嫌なことも辛いことも帳消ししてくれる存在なのに。かわいい一彩と一緒に過ごしても、それだけでは満たされないものがあって、優希がこんなにも自分の中で大きな存在だったのかと実感させられる。



優希に会いたい、ギュッとしてくれる優希の笑顔に触れたい。優希の声が聞きたい、「燐」って呼んで欲しい。





そう思ったら、居ても立っても居られなくて気付けば足が動いていた。







優希が以前、練習は里の外れでやっていると言っていた。舞を踊り、練習するのには広さが必要らしい。かといって、見られていいものでもないから、と言っていたけど。



少しだけ木々がお生い茂った先に広い場所が見えてくる。そこに人影はあって、やっぱりと思って近づけば、一つの影がドサっと次回から消えた。



「、ッ」


思わず声が出そうになるのを何故か押し殺して物陰に潜んで見ていた。



「っ…」
「優希、早く立ちなさい」
「…っはい、母さま…」



初めて見たその光景は、会いたかった優希は俺の会いたかったものとは違うものだった。ボロボロになって、しかめっ面で唇を噛み締めて立ち上がる優希を俺は見たことがなかった。いつだって、俺に見せてくれるのはニコニコと笑って俺に抱きついて、すり寄ってくれる姿。一彩の前ではお姉ちゃんだからって胸張って、でもたまに一彩に隠れて俺のところで静かに泣いたり。あとは他の人、水城に駄々こねて、イヤイヤやってるのがあったぐらい。


けど、今目の前にいるのは誰だ。



「もうすぐ、あなたの初舞台なんだから」
「わかってます…」
「初舞台だからって、思っていては駄目なのよ」
「母さま、わかってるからっ」



あんな風に優希に強くいう水城も初めてで、二人は何故こんなにも必死なんだろうかと思ってしまう。里のみんなは水城のことも認めているし、優希だって何で…そんなになるまで、と思っていれば、その思いが届いたかのように優希の口から答えは放たれる。



「だって、燐のお嫁さんになるんだもん…ッ、燐のお嫁さんに相応しいって思われるようになるんだからッ」
「優希、母を越えなさい」
「んっ…、母さま…もう一回っ」















辺りが薄暗くなった頃、優希の家屋の前に座り込んでいれば、ザッザッと足音が耳に入る。顔を上げれば、先ほどと同じようにボロボロの姿になった優希が水城と一緒に戻ってきたようで、二人並んでいる姿が視界に入る。優希と言えば、ここに俺がいるとは思っても見なかっただろう、目が合うなり凄く驚いた表情を浮かべていた。


「燐音様…?!どうしてこちらにっ」


声をまず上げたのは水城で、さっき見た時の雰囲気とは打って変わって、あわあわと慌てた様子が見て取れる。けど、そんな事はどうでもよくて、俺は立ち上がってずっと動かずに待っていた脚に力を入れて歩み寄る。


「…燐…?」


ずっと会えなくて寂しかった気持ちを埋めるように優希をただ黙って抱きしめた。ギュッと力を込めて、離さないように。優希は俺が何も言わなかったことを不思議に思ったのか、俺の名前を呟く。



「…燐…どこか痛いの…、?」
「燐音様…」


優希の声から心配な声色が届く。水城も困った様子なのは見なくてもわかった。


「…水城」
「はい、」
「今夜、優希と寝かせて」
「は…えっ…?!」


水城は俺の発言が予想外だったらしく、珍しく俺の言葉に驚きを見せた。


「あと、優希、傷だらけだからきれいにしよ、俺がする」
「燐…?」


優希はとことん訳がわからない様子で、こてんと首を傾げて俺を見つめる。優希の手のひらは何度も転んだのだろう、小さな砂利傷がついていて痛々しかった。



「優希は俺のお嫁さんだから、俺が手当てするし優希と一緒にいたいから、優希のところで寝たい」
「燐…」
「いいでしょ、水城」



結局あの後、水城が完全に折れて俺は優希の手当てをしてきれいにしてあげて、一緒に布団に入って寝た。久々に感じた優希の存在に俺は凄く安心してしまう。久々に擦り寄ってきてくれた優希は、いつもみたいに嬉しそうな表情で「燐、好き」って言ってくれて、胸のあたりがぽかぽかした。

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