不意を突かれる
※燐音視点
「も〜燐音くんのバカ!キライっす!」
いつものように、ニキをちょっとからかっていれば、やいやいと騒ぎだす。こんなやり取りもいつも通りすぎて、変わらない日常に安堵を覚えながらも幸せな気持ちが溢れてきて自然と笑みが溢れる。
「ァアッ?ニキのくせに生意気なこと言うじゃねェか」
「痛いっ、痛いっす!僕のしっぽ引っ張らないで!」
グイグイとしっぽを引っ張れば、また騒ぎ出すニキ。俺らの様子をもはや呆れていちいち反応するのもめんどくさいのかメルメルもこはくちゃんも目線を合わせようとしないのまでがいつもの日常。それがまた心地よくて幸せを噛み締める。
「燐音はんも飽きひんで、ようやるわな」
「HiMERUもそう思います」
「ちょっと、二人とも助けて下さいっすよぉ〜!」
「きゃははっ!ニキてめェは俺っちにいじめられる運命なンだよォ」
「そんなんじゃ、優希ちゃんにいつか愛想尽かされるっすよ!!!」
「ンなのあるわけねェだろうが」
突然、出てきた優希の名前に思いっきりニキのしっぽを改めて引っ張ってやったら「ギャっ!」って鳴きやがった。
「その自信はどこから来るんですかね…」なんてメルメルが言ってる気がしたけど、そんなの知らねェ。
昨日だって会ってたけど、何も変わらない。変わらず、俺のところにすり寄ってきて抱きついて寝てたし、いろいろ可愛かったし何言い出すんだよって気持ちを込めて引っ張ってやった。そろそろニキがかわいそうだなァと思って、パッと手を離してやれば、「僕のしっぽ…」なんて言いながら項垂れてるニキが何かに気づいて動きが止まる。
「ア?優希」
ニキの視線の先を追ってみれば、そこにいたのは優希の姿。何やら、晴れない表情で下を向き、居た堪れない様子の優希は目線を泳がせている。ぎゅっと両手に力を込めていて、こんな感じの優希を普段見ることがないので何かあったのは一目瞭然で。何かあったのかと思って、口を開きかけた時、鈍器で頭を殴られたような衝撃を受けた。
「燐のバカっ、きらいっ」
一瞬何が言われたのか理解できなかった。プイッと横を向く優希は今、何を言ったのか…?と言葉を思い出してリプライするも、その意味がやっぱり理解できない。さっきも言ったように、優希からの言葉は鈍器で殴られたような衝撃を与えるぐらいの威力はあった。
「は…?ンだよ、突然」
昨日までは普通だった。そう、何もなかった、普通にいつも通り抱き合って寝て、目が合えばキスをして。自分がいつの間にか何かしてしまったのか、記憶にない中で何かをしでかしたのかと記憶をひたすら思い返す。真っ白の頭の中でグルグルと思い返して、焦りから喉は乾いて言葉は出ない。
ハッとする。
カシャっとシャッター音が耳に入ってきて、それがスマホのシャッター音というのはすぐに理解できた。場に似つかない音を不審に思い、視線をずらしてみればスマホを構えている姿のニキと目が合う。ニキといえば、「ひっ」なんて声を漏らしてビビっている。その様子に思わず、「あ?」と声を出してしまうが、その後の言葉は出なかった。
ぼすっと優希が抱きついてきたからだ。胸元に顔を埋めているせいで表情は見えないが、ギュッと回された腕から伝わる感触がいつも通りで少しの安心とマジで何なんだという気持ちが混在する。
「燐っ、ごめんなさい…っ」
エイプリルフールだったから…という言葉で全てを察し、優希の行動が初めて納得いった。ぽんぽんと頭を撫でてやれば、もぞもぞと動く優希。さてと…。
「とりあえずニキ、一発殴らせろ」
「ぇえっ!ひどいっす!」
「うっせェ!」
結局、あの後メルメルやこはくちゃんも俺らの一部始終を動画と写真で残してることを知る。優希という仕掛け人により、完全に不意を突かれて騙されたが、まあこれはこれで悪くない日だったなと思った。
口にはぜってェ出さねェけどな。
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