とある日の朝



心地よい、と言う言葉が一番しっくりくると思う。布団の中で寝ている時ってなんでこんなにも気持ちがいいのだろうか。ただ、今回の理由はそれだけではない。腰のあたりにある自分や布団とはまた別の温もりと、そっと優しく頬を掠める何か。

それはあまりにも心地よくて、まだこのままでいたいけれど、そっと目を開いた。


まず、視界に入ってきたのは肌色の何か。焦点が合わずに、ボヤボヤとしていて、何回かゆっくり瞬きをするとそれが人の首元であり、鎖骨であることを認識した。横向きに寝ていたあたしは、上を向いている方の頬を先程から掠めていたものは、その目の前から伸びている手であり指であることも認識できた。働かない頭でそのまま視線を上にずらしてみれば、少し眠そうなのかな、目を細めながらあたしを見つめている燐の姿。少し寝癖ができていて、まさに寝起きって感じだけれど、それさえも気にならないぐらいかっこいいと思ってしまうのは、あたしが燐のことが今も変わらず大好きだからだろう。



「おはよ…優希」

「んぅ…おはよ…燐」


今、何時だろうと思って、腕を伸ばしてスマホでもと思ったけれど、その動きは燐によって阻止された。なんなら、少し面白くなさそうな表情をしている。


「今日オフだろ」

「んんんん…オフだけど…」


確かに今日はオフである。オフだけど、朝なら起きなきゃいけないし、燐が起きているなら尚更。朝ごはんとか準備してあげたい。それにあたしはオフでも、何か連絡も来てるかもしれないから確認は欠かせない。

そんなことをポヤポヤの頭で考えているだけ。頭で返事をして言葉にまで出していない。そんな、あたしをどう思ったかわからないけれど、燐は頬を撫でてくれていた手であたしの前髪をかき上げる。あぁ、またウトウトしてきた。


「なら、もうちょっと、寝よう…な」


それは優しい声色で、それは故郷にいた頃、燐がどうしても行かなきゃいけない君主としての業務があった時、珍しく一緒に行きたいと言っていたひーくんを諭していた時のことを思い出す。あの時、燐はどうやってひーくんを諭してたんだっけ…、あたしは2人のやりとりを見ていて、しぶしぶ頷いたひーくんを後ろから優しく抱きしめて、燐に「いってらっしゃい」と言ってあげたのを覚えてる。


自然と目蓋が閉じようとする中で、次はなんとか声に発することができた。


「りん…」

「んー?」

「…ぎゅって」


してほしい、と紡ぎ出た言葉。もう目蓋は重くなって開きそうにない。だから、燐が、どんな表情をしているかも確認できないけれど、ぴたりと動きが止まったのだけはわかる。

そして元々回されていた腕とはまた別の腕が、そっと頭の後ろにきたことを感じたと思ったら、グイッと燐に、抱き寄せられた。さっきよりも燐の体温が身近に感じて、更に心地よい。目の前にあるであろう首元にスリスリと擦り寄れば、このままいい夢が見られそうとさえ思う。


燐…すき…


この言葉が声に出ていたのかは、正直わからない。けれど、落ちていく意識の中で、「俺も」という燐の声がきこえたきがした。

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