喪失と昏睡2



ニキくんいわく、燐はいわゆる記憶喪失というものらしい。一緒に転落した燐は、頭を打ちつけたようで同じように意識がなかった、しかしすぐに目が覚めて健康状態は問題ないと診断されるも、ニキくんがあたしが目が覚めていないことを伝えると「優希って誰だ?」と燐がいったことにより、記憶喪失が発覚したらしい。燐の記憶の中から失われたのは、水城優希に関することだけ。



「一時的なものかもしれないし、永久的なものかもしれないって…。正直どうなるかもわからないんすよ…」


伏し目がちに呟くニキくんの言葉を聞いて、現実を突きつけられた気がした。













ニキくんに話を聞いてから数日。
何度か燐にコンタクトを取ろうとしても、何故かあしらわれて、躱されて…。

燐はあたしが何故寄ってくるのか、むしろ警戒してるようにも感じる。そりゃ、自分が知らない人間が燐って呼んで寄ってきたら、そうなるか…と思う。ただでさえ、燐は故郷にいた時も、今のユニットにいる時も常に物事考えて立ち回ってる訳であって、ましてや今は燐を面白く思ってない人が多いのも事実で。そんな燐に意味もなく寄る人がいる方が珍しいはず。



燐に必要とされなくなった時が離れる時だと常々思っていたけれど…、


「こんな形でなるなんて辛いな…」


受け入れてもらえない現実が信じられずに、受け止めきれず、記憶喪失ということを何とかして思い出せないものか、と思ってしまう。こんなにも自分は貪欲だったのか、とここで嫌でも気付かされる。

はぁ…とため息をつき、トボトボとES内を歩く。その足取りは重く、行き先は未定。


燐に会いたい、
燐に触れたい、
燐に抱きしめてもらいたい、


一度はもう戻れないと思っていたのに、戻れたが故にまた失うのは怖い、失った怖さを知ってるからこそ…。



「姉さん」



そんなことをぼんやりと考えていた時、ふと聞き慣れた声が耳に入った。声のした方を見てみれば、そこにいたのは浮かない顔をしたひーくん。眉間に皺を寄せて、何やら思い詰めた表情は、あたしが普段見たことのないものだった。



「姉さん、話があるんだ」
「…話…?」


静かに歩み寄ってきたひーくんは、あたしの顔を見ては一度何かを言いかけては言葉にできず、目線を逸らす。口を開けては閉じてを繰り返し、言葉を声に出すことを悩んでいるようで。ひーくんは一度動きを止めるも、意を決したのか、再び視線は真っ直ぐあたしを捉える。



「姉さん…、もう兄さんに関わるのをやめてほしいんだ」



一瞬、ひーくんが何を言ったのか理解できなかった。



「兄さんはずっと悩んでたんだ、姉さんが故郷を出て行ってから、ずっと悩んでた。僕に言葉にはしなかったけど、ずっとそばで見てたんだ」
「ひーくん…」
「今回のことだって、姉さんを庇って落ちたって聞いたよ。もう、兄さんに辛い思いとか、嫌な思いをさせたくないんだ」


喉の渇きのせいか、
言われた言葉のせいか、


あたしは言われた言葉に対して言葉を声に出すことができなかった。


「だから、兄さんから手を引いて欲しい」

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