約束と許嫁



※燐音視点


「やぁっ!燐と一緒がいいっ!!」
「優希、わがまま言わないの」
「やっ!燐と一緒がいいのっ!」


ぷいっと顔を背ける優希に水城は困ったようにため息をつく。優希は先ほどから俺の腕にしがみついたまま、ずっとこんなやりとりを水城と繰り返していた。


「優希、一彩様がまだ小さいのだから、ご迷惑はかけられません」
「優希はいい子だもんっ…!」
「いい子なら、こんなわがまま言いません!」
「んんんやっ!燐といっしょにねるのっ…!」



事の発端は、優希が俺のところに寝泊まりに来たいという話からだった。しかし、水城はまだ幼い一彩もいるため、迷惑をかけられないと言って優希を納得させようとしているが、優希はその言葉を聞き入れようとはしない。つい最近まで、里の中で色々な行事やら稽古やらで俺も優希も慌ただしく一緒に過ごせる時間も少なかった反動だろう。やっと久々に、限られた時間ではあるがゆっくり一緒に過ごせたのに、その時間はあっという間に過ぎてしまって、優希はまだ離れたくないと駄々をこねて、今に至る。



「優希…」
「燐といっしょがいい…っ」


俺が名前を呼べば、優希は水城に対してと違ってか細い声で腕に擦り寄ってくる。空いてる方の手で頭をよしよしと撫でてやれば、優希は泣きそうな顔をして俺を見つめた。


「りん…、優希といるのやだ…?」


事の発端は、優希と水城の親子による帰る帰らない問題だったはずなのに、何故か問題点が段々とズレていて。突然の問いに俺は正直驚いて、一瞬言葉を詰まらせた。それを見抜いた優希は、目を更に潤ませて今にもこぼれ落ちそうになる。


「いやじゃないよ、俺も一緒にいたい」


素直に思った事を口にすれば、優希はさっきまでの不安そうな表情から一変して、目をパチクリさせる。そして言葉の意味を理解した瞬間に、抱きついていた腕を手放したかと思えば、そのまま思いっきり正面から首に腕を回してガバッと抱きつかれた。


「りん、すきっ」


優希は素直だ。思った事をなんでも言葉にしてくれる。その言葉が俺の中でふわふわとした気持ちにさせてくれる。ぽかぽかした気持ちを抱えて、俺も優希を抱きしめると、優希の後ろで困った表情の水城が視界に入ってきた。


「燐音様…」
「水城、母上には俺から言うから。俺も優希と一緒に寝たいから、今日は貸して」


水城は、少しだけ悩んだような唸り声をあげると、はぁ…とまたため息を一つ。「わかりました、優希がご迷惑をおかけします」と呟いた。



「優希、一緒に寝ようね」
「うんっ、燐といっしょっ!」


ふと頬に感じる柔らかい感触。いつものようで、いつもより近い位置にある優希の顔。突然のことに訳がわからず、次は俺が目をパチパチさせていれば、「優希?!?」とまた水城が驚きの声をあげる。


「優希っ、何やってるのっ…!燐音様に…!」
「…?だって母様、好きなひとにちゅーするって言ってた。優希、燐が好きだからちゅーしたの」
「あぁ、それは家族同士の話で…!」
「燐は優希のこと好き?」
「うん、好きだよ」
「じゃあ、燐もちゅーしよ!」


どうやら、俺は今優希に頬に口づけをされたようだった。突然のことで訳がわからないまま話は進み、水城は再び取り乱す。どうやらそのやりとりは母上の耳にも入ったようで、一彩を抱っこした母上が「あらあら」なんて言いながら、気づけば後ろに立っていた。


「良いじゃない、水城」
「しっ、しかし、燐音様に…!」
「かわいい優希に燐音が好かれていて、私も嬉しいわ。将来は優希が燐音のお嫁さんかしら」
「およめさん…?」


母上の言葉に、首をこてんと横に傾ける優希。そっか、優希はまだその意味を知らないのか。


「父上と母上、優希の父上と母上みたいに一緒になることだよ」
「…およめさんになったら、燐とずっといっしょ…?」
「一緒だよ」
「じゃあ、優希は燐のおよめさんになるっ」


優希は言葉の意味を理解して、今まで以上に嬉しそうに、へらりとはにかんだ。すりすりと擦り寄ることで、優希の体温や体重が伝わってきて、思い切り抱きしめてくるから少しの苦しさもあるけれど、それさえも心地よく感じる。


「ふふっ、これで水城もそんなに心配しなくても大丈夫よ」
「…し、しかし…」
「優希はこんなにも燐音を好いてくれてるのですから、良いじゃない。今日はこちらで預かるからそっちも心配しないで」
「…ご迷惑おかけします」

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