深夜の訪問者



夜更けの時間帯、仕事を終えて疲れを癒すためにお風呂にも入ってひと段落ついた頃。そろそろ寝ようか悩んでいた時、インターホンのチャイム音が家に響く。誰だろう、こんな時間に…と思って、確認すると「優希ちゃん〜」とニキくんの声がして、更に驚いた。


慌てて玄関に向かい、鍵を開けてみてみれば、先ほど聞いたばっかりの声の主であるニキくん、と肩を組んではいるものの、明らかに意識がないように見える燐が一緒だった。


「優希ちゃん、助けてほしいっす〜!」
「えっ、燐どうしたのっ…、!?」
「燐音くん、打ち上げで呑み過ぎて珍しく酔い潰れたんすよ〜」


熱があるのか、具合がどこか悪いのか、と思い、燐の少し赤くなっている顔などを触れながらニキくんに聞いたら、一瞬耳を疑った。酔い潰れた…、確かにニキくんはそう言っていて、燐に顔を近づけて、スンスンと匂いを嗅いでみたら、確かにアルコールの匂いがするではないか。


「燐音くん、結構煽られて気づいたらめちゃくちゃ呑んでたみたいで…、寮に連れて帰ろうと思ったら、帰りたくないって駄々こねて…」
「え、っと」
「でもHiMERUくんもこはくちゃんもこんな時間に出歩いたらマズイんで、とりあえず僕だけで連れて来たんすけど…、燐音くん!!!優希ちゃんとこ着いたっす!!!」
「そっか…、ごめんね、疲れてるところ」


正直、ニキくんがこんなにも一気に喋るから圧倒されてしまったが、事情は理解できた。ニキくんに迷惑かけて申し訳ないと思って、謝罪の言葉を口にしながら燐の名前を呼べば、ずっと閉じていた目がうっすらと開く。ぼーっとした様子で、しかし燐の瞳はあたしを捉えてくれたのか、あたしがそれを認知した瞬間、ガバッと燐の体があたしに覆い被さる。

「うわっ、燐音くんっ…?!優希ちゃん、大丈夫っすか…?!燐音くんに潰されてない…?」
「う、ん、大丈夫…。ほら、りーん。靴脱いでおうち入ろう…?」


今のあたしは燐が覆い被さってるせいでニキくんの顔も姿も見えないし、それはニキくんも多分同じだろう。突然の動きに驚きはしたが、意外と重くない、というか体重をかけてない…、と思う。ただ単に、これは覆い被さるように抱きしめられてる気もするが、アルコールの匂いがはっきりしてるわけで酔いも回ってることに間違いはなさそうだから、家に入ることを促せば、「ン〜…」と声を漏らしながら、なんとか靴を脱いで家の中へ。


ニキくんもお疲れなのでそのまま帰ってもらい、一人で燐を誘導してベッドに寝転がす。
仰向けになって両手を広げてる燐の髪を撫でながら、意識は大丈夫そうと確認した上で、とりあえず水を持ってこようと思ったとき、不意に腕を引かれて何故かあたしまでダイブ。気づけば燐の腕の中に閉じ込められていた。


「離れンな…」
「り、ん…」
「ここに、いてくれよ…」



珍しくか細い声だった。か細い声なのに、しっかりと腕は力がこもっていて、見れば燐の目はゆらゆらと揺れている。ポンポンとしながら、「お水持ってくるだけだよ」と伝えるが、その力は緩む気配がない。


「…あたしの居場所はここだから、離れないよ」


燐に抱きしめられたまま、逆にそのまま身を預けて顔を埋めてしまえば、燐の腕の力が少しだけ緩んだ。


(あたしが離れるときは、燐が望んだ時…)


そう心の中で呟いた言葉が燐にはきっと届いてないだろうけど、燐は気が緩んだのか酔いが回って限界が来たのかそのまま瞳を閉じる。


酔いも回って寝てしまったのだろう。


少しでも燐がいい夢を見れるように、と気持ちを込めてあたしも瞳を閉じた。

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