変化と不変〜後日談〜



たまたまだった。ESについて、パッと見た視線の先の人とぱちっと目が合い、どちらともなく「あっ」と声を漏らす。


「ジュンくん、お疲れさま」
「ちわっす、優希さん」


小さく手を振れば、ペコリとお辞儀をしてきてくれるジュンくん。真面目だなと思う彼は、先日の舞台以来会ってないなかっただけだが、久々だなあと感じてしまうのは、多分舞台稽古で毎日のように一緒に過ごしていたからだろう。



「ジュンくんはコズプロに行くの?」
「そうですね〜。優希さんは、ニューディですか?」
「うん、打ち合わせにね」


お互い行くのはそれぞれの事務所ということもわかり、短い時間だが一緒に移動することにした。ジュンくんは周りを何度かさりげなく見渡して、何かを気にしているように見える。


「ジュンくん、どうかした…?」
「いや、その」


ジュンくんにつられて、周りを見て見たけど、手近な場所には目星となるものもなければ、人影もない。それなのにジュンくんは歯切れも悪く、視線を泳がせて何かを言葉にすることを悩んでいるようだった。

ジュンくんが口を開けては閉じてを繰り返し、モゴモゴさせてる。はて、何かあたしはしてしまったっけ?と考えるも心当たりが浮かばない。



「サクラくんに聞いたんですけど」
「さくらくん…?」
「あぁ、桜河こはくくんっすよ〜」


桜河の桜でさくらくん、なるほど。なかなか可愛らしい愛称にうんうん頷いていれば、ジュンくんは意を決したように言葉を続ける。


「燐音先輩、大丈夫でした…?」
「え、燐…?」


こはくんの次に出てきた名前がまさかの燐で驚いた。燐が何かしたっけと最近を振り返ってみれば、ひとつだけ思いついた出来事がある。


「この前の時の…?」
「そうっすよ〜あの時の燐音先輩、結構マジな感じだったじゃないっすかぁ〜」


ジュンくんの指すマジとは、マジで怖かったの意味かな、と勝手に解釈して。舞台共演で稽古続きだった時、たまたま燐と鉢合わせた時のことだろう。あの時、確かに燐は珍しく凄みのある表情をしていたし、声もドスが効いててあたしでも不安になったなと、過ぎたことだからこそ、のんきに振り返る。

ジュンくんはジュンくんで、あの時を思い出して肩をすくめて、首を横に振りながら、「しばらく燐音先輩に会いたくなかったっすもん」なんて言っているから、申し訳ない。


「燐は大丈夫だから。そっか、ジュンくん同じ事務所だもんね」
「事務所も一緒だし、サークルも一緒なんですよね〜」
「サークル…?」


そういえば、たまに燐がサークルがどうこう言ってたなと思い出すが、正直あまり覚えてない。ジュンくんはあそび部がどんな事をしてるのかとかをざっくりとわかりやすく教えてくれた。メンバーを聞いても楽しそうなメンバーだし、ただそこに燐がいるのもなんか不思議だなと思ったりもする。


「けど、燐音先輩がいるなら、あんな誤解招くようなこと、口にしない方がいいですよ」



「ほら、あんな恋してみたい!って言ってたじゃないっすか。燐音先輩もそりゃ怒りますよ。付き合ってるなら」
「え?」
「え…?」


気づけば、ジュンの発言に目をパチパチさせながら、今なんて言った?と聞き返してしまった。「あたし、燐とそんなんじゃないよ」なんて口にすれば、ジュンくんが思いっきり「はぁ…?」と声を上げて驚く。


「マジですか?」
「むしろ、誰情報なのか教えてほしいぐらい…」
「サクラくんは優希さんと俺のせいで燐音先輩がめっちゃ機嫌悪いつってたんで、てっきり」
「うーん…」


燐とは故郷にいた時に許嫁として過ごしてたし、一回なくなっとはいえ、それも結局ヨリを戻した…と思ってはいるけど。そんなあたしと燐を繋ぐことを言い表すための言葉を、ジュンくんに言われて考えてみればなんなんだろうかと思ってしまった。

世間の言うお付き合いとか彼氏彼女とかそういうのとは違うと思う。

多分、そんな簡単に言い表せない。


じゃあ、今の関係は…?


結局それは答えも出ず、モヤモヤだけが残ったけど、あたしはそれを敢えて気にしないように心の中の引き出しの奥に閉じ込めた。

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