全ては貴方のために



※心の痛みと君の叫びの続き



「だめだよ…ッ、りんがずっと、なりたかったアイドル…ッ、みんなに、も…だめ…りん、だめ、」




燐の居場所がなくなるのは見たくない。あの時みたいに、燐から居場所を取らないで。



燐はなりたいものになれたのだから。


夢を叶えられたのだから。


仲間ができたんだから。




そう伝えたいのに思いは言葉にならず、瞳からポロポロと溢れる一方だった。



それからは、記憶が混乱していてあまりちゃんと覚えてないけれど。燐には、あたしの言葉が届いたみたいで気づいたら燐は静かになっていて、着ていた服をあたしにかけて抱きしめてくれていた。あたしを抱えながら、プロデューサーに何かを言って、レッスン室を後にする。その時に、HiMERUくんとこはくんがいたことを初めて知った。












普段なら気にならない沈黙がこれほど居心地が悪いと思ったことはなかった。


「燐、ごめんなさい…ッ、ごめッ」


燐の顔が見れなくて、あたしはひたすら謝ることしかできない。


「謝んな…怖かっただろ…」
「り、燐ッ…」


そっと触れる燐の体温が、あたしに変わらない優しさを与えてくれる。それがまたズキズキと胸に痛んで苦しい。


どうやって戻ってきたかなんて記憶になかった。気づけば自分の家に戻っていて、一人になりたくなくて燐を引き止め、今に至る。



「り、ッ…、さっき、の…」



ちゃんと説明しなきゃ、あたしはアイツが言ったようなことはしていない。言葉にしようと思えば思うほど、呼吸が乱れて過呼吸のように息がうまく吸えない。それを悟ってか、燐はまるで、泣きじゃくる子供を落ち着かせるように、あたしの背中をゆっくり撫でる。


「さっきのはアイツのデマかせだってわかってるから」


その言葉を聞いて、顔を上げれば燐はなんとも言えない、苦虫を潰したような表情を浮かべていた。


「心配すんな。わかってるからよォ…」


口ではそう言うけれど、あたしの中でも消えない不安が心の中を蝕んでいく。言葉だけじゃ、この不安は消えない。不安を消したい、燐にも…どうしたら、


「ねえ…燐…、」


必死に頭の中で言葉を構築しようとしていたら、一つの答えに行き着いて、燐の胸元に顔を埋める。嘘みたいに頭の中がクリアになっていくのがわかった。



「ずっと…燐だけって思ってたから…」
「あぁ…」
「燐のお嫁さんになるって…ずっと思ってたから…、全部初めては燐って決めてたから…」


ぴたりと、燐の手が止まる。多分、あたしが何を言いたいのか気づいたんだろう。



「誰とも関係は持ったことないし、初めても、初めてじゃなくても燐だけがいい…」


ねえ…、ダメ…?って言葉は声にならなかった。


「ッ、ふっ…ン、」


口を塞がれて、後頭部に手を回され、突然のことで上手く酸素が入らない。けど、苦じゃなかった。不安だった胸の苦しみが溶けていく。燐への想いがあふれて、こぼれていく。


「ッ…故郷での教えをわかってンのかァ…」


眉間に皺を寄せる燐の瞳は、珍しく不安の色が垣間見える。


「燐がまたあたしを受け入れてくれたあの日からあたしは全部燐のものだよ…」


燐の頬に手を添えて、擦り寄りながら蘇るのは燐と再会したあの日のこと。



今も昔も、あたしは全て燐のために。

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