救ったのは君の言葉



※まだ知らない未来の続き


震える、体が。カタカタと止めたくても止まらない。止めると意識すら働かない。右を見ても左を見ても目の前の光景は変わらない、逃げ場はないことを思い知らされる。


「せっかく、仕事あげるって言うのに何で断るの?断る理由なんてないでしょ?売れるんだよ」


目の前には例のプロデューサー。いつも見たいな貼り付けた笑顔はなくて、冷たい目線で見下ろしてくる。背中には大きな鏡、視線を送ればグシャグシャになった表情の自分がそこにいた。しかし、グシャグシャなのは表情だけではない。肌けたシャツ、前を両手で覆ってはいるが、実際にはブラまで露出してしまっている。


「何でアイドルやってんだよ、」
「っ…」
「売れるためなら、美味しい話だろ…」


プロデューサーに顎を無理やり掴まれ、目線を合わせられる。触れられているところが気持ち悪い。何度も心の中で助けてと叫ぶが声にはならない。

このプロデューサーは、売名を理由に体の関係を求めると言うのを聞いたことがあった。アイドルは売れるためなら、とこの囁きを聞いて手段を選んでられないと思い、乗っかってしまう人の話もよくあるとのこと。だから注意するようにと聞いたのは、Knightsのみんなから離れて仕事を貰うようになった頃だった。

確かにこの男は、芸能界の力はあるのだろう。だけど、


(あたしは売れたいためにアイドルを始めたんじゃない…)


あたしがなった理由は、燐が憧れていたものだったから。里を出て、自分から手放したというのに、少しでも燐との関係を繋ぎ止めておきたいと思ったから。アイドルを純粋に志してる人たちには申し訳ないけど、あたしの世界は全て燐を軸に回っている。


だから、こんな男に囁かれる言葉に興味もなければ、正直言ってしまえば燐が望むのであればアイドル活動でさえ、棒に振ることだってできる。けど、あたしのせいで燐に迷惑はかけられない。


「っ…、や…やめっ、」
「ここは防音の設備が整ったレッスン室だ。君も知ってるだろう、?しかも使用中にして申請だって出してあるから、今ここに誰かが来ることの方がありえない」


耳元に顔を近づけて吐息と一緒に囁く声に嫌悪を感じる。太ももを這う手が気持ち悪い。



何もかもが嫌で、でも逃げ場も手段もなく、硬く目を閉じて腹を括るしかないと思った。






気づけば、目の前にあった嫌悪となる感覚が一瞬のうちに消えた。それだけではない、安心する香りが鼻をくすぐるではないか。

突然の変化に何が起きたのか訳もわからず、ずっと頑なに閉ざしていた目を開けてみれば目の前には真っ白の世界。一瞬何がなんだかわからず、視線を上にずらせば見慣れた赤がそこにある。



「てめぇっ、誰に手ェ出してンだよ…」


普段聞くことのない低い声がレッスン室に響く。顔までは見えなくても、この人は一人しかいない。


「り、ん、…」

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