お忍びデート〜前日譚〜



※燐音視点


夜の時間がお互いに合ったこともあって、優希の家で互いに酒を呑んでいた時だった。いつものように、優希は横にぴったりとくっついて、寄りかかってちびちびと缶チューハイを呑んでいて。俺は俺で酒を片手に二人でテレビを眺めていたはずだった。


気づけば、優希は何故か抱きついており、顔を埋めているではないか。唐突すぎて訳が分からず、とりあえず頭を撫でてやれば、「う〜」と聞こえてくる唸り声。


「ン〜どした…」
「…も、…ぃ…」


声がこもっていて、何を言ってるのかがわからない。ン〜どうすっかなァ〜、と思っていたら、顔を少しだけずらしてちらりと見える優希の瞳。頬も赤く見えるが多分、それはアルコールのせいだろう。


「あたしもりんとおでかけしたい…」



改めて聞こえた声は相変わらず控えめなもの。アルコールのせいで酔いも回っているのだろう、情緒がやや乱れているのか、その瞳は潤んでいた。


「あんずちゃん…りんとデートしたってきいた…りんはあたしのだもん…」


ギュッと掴む優希の手。控えめに聞こえた声は弱気からなのだろう。とうとう伏し目がちの瞳からポロポロと感情共に涙がこぼれる。どうやら、先日のプロデューサーに専用衣装を作ってもらったときの話を言いたいのだろう。普段からあまりこう言う事を言わないので、驚き半分、嬉しさ半分。表情に込み上げてくるものを咬み殺す。


「優希チャン、酔ってンの?」
「、ンっ」


覗き込むように顔を近づければ、そのまま首に腕を回してきたかと思えば、そのまま優希によって唇を塞がれた。触れるだけのキスをして、離れた優希のおでことおでこを、こつんと合わせる。


「今日は甘えただなァ」
「…りんはいや…、?」
「ンなことねェよ…すげェ嬉しい」


あぁ、本当に嬉しい限りだ。いつも不安になることも多いからこそ、自分ばっかりなのではと思ってしまうこともある。一彩といい分け隔てなく、親しくなってしまう質だから、優希には申し訳ないが、こういうことで普段感じている不安が薄くなるし、たまにはそういう感情になってもらえるのも良いなと思わずにはいられない。



「お出かけしよっか」
「する…」
「ンじゃぁ、とりあえず今日はもう寝ような」


酔いもまわって、睡魔がやってきたのだろう。重い瞼をゆったりとパチパチさせながら、必死に起きようとしていた優希。背中をリズムよくぽんぽんとしてやれば、素直に頷く。


「スケジュール、見とかねェとな」


あー次のオフはいつだったかなァ、なんて考えながら優希を横抱きをしてベッドに運んだ。



次の日の朝、一緒に寝ていた優希が目を覚ましたら、酔っ払った時のことは忘れていたので、「デートしよ」って誘ったら、驚いた表情の後にめちゃくちゃ喜んでくれたので良しとしよう。

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