お忍びデート3




「あれ、」
「ン〜どうした…?」 


ある人が目について思わず立ち止まれば、あたしが止まったことによりつられて燐も一緒に立ち止まる。あたしが黙ったまま、燐に声をかけられても言葉を発さなかった故、燐があたしの視線の先を目で追う。そこにいたのは一人で泣きながら立ちすくむ男の子がいた。


「迷子か…」


わんわんと大声で泣き喚くその子は誰が見ても迷子のそれで。周りにはお母さんらしき人もお父さんらしき人も見当たらない。生憎、まず周りにはあたしたち以外の人がいなかった。


「お母さんと一緒だったの…?」


男の子のそばまで歩み寄り、しゃがんで目線の高さを合わせながら尋ねてみる。男の子は泣くことに必死で、言葉は耳に届いていないようだ。なので、背中をぽんぽんとあやすように軽く触れながら、もう一度同じ質問を問いかける。


「まッ、マ、マッ、ママッと、」
「そっかそっか、じゃあ、お姉さんと一緒にママ探そう?」
「ン、ウッ、ウ、ンッ、…」


泣きすぎて嗚咽まで出てしまってるその子は、聞き取り難いながらもなんとか返事をしてくれたため、その言葉を聞いて「おいで」と抱っこしてあげる。まだ幼い男の子は、お母さんとはぐれたことに頭がいっぱいで、知ってるかは知らないが、知らない人について行ってはダメって概念もないのか、抱っこしてあげれば段々と落ち着いた様子を見せてくれる。ぐずぐずしながらも、聞き分けの良い子で助かった。


「探すってマジで探すのか、?」
「さっき、案内所あったから、そこに行こう。もしかしたら、いるかも」
「よく見てンじゃねェの」
「たまたまだよ、」


燐には申し訳ないが、ちょっとばかりこの子のために付き合ってもらおう。だって、こんな子を一人ほっとけるわけがない。「ママのところ、行こうね」と男の子にもう一度声を掛ければ、静かになった腕の中で「うんっ」と返してくれた。




来た道を戻りながら、周りにこの子の親がいないかな、と思いながら視線を配るがそう簡単には巡り会えず。この子がまたいつ泣き出すかもわからないので、ぽんぽんと背中を叩きながらあやしていれば、だいぶ慣れてくれたようで完全にあたしに体重を預けるように頭までピッタリとくっつけている。


「こうやって見ると、優希がママみてェだな」


唐突に言われた言葉に、チラリと視線をやれば横で燐があたしと男の子の様子を見てニヤニヤしてるのがわかる。突拍子もなさすぎて、男の子は本気で困ってるのに一瞬何を言ってるんだと思いもした。けど、そっかあ。


「…あたしがママなら…、燐がパパだね」


歩いていて段々と腕から下がっていく男の子を抱き直すために、一度よいしよっと上げ直していたため、言った瞬間、燐の顔は見ていなかった。抱き直してから、隣にいたはずの燐の気配がなくなったことに気づき、おかしいなと思って立ち止まって見てみれば、数歩後ろに燐は立ち止まっていた。


「おっま…そういうのやめろよなァ…」


マスクをしているというのに、片手で顔を覆い隠している。表情まではわからない、けれど、あたしは気づいてしまった。燐の耳が真っ赤になっていることに。


「燐…?」
「意味わかってンのかよ…」
「わかってるよ、だって燐のお嫁さんなるってそういうことだもん」


ねー、と男の子に同意を求めるが男の子はもちろん、何のことだろうと反応なし。あたしがクスクスと笑いながらいるものだから、燐は燐で喉をグゥと鳴らしてそっぽを向いてしまった。






あれから案内所につき、スタッフの人に事情を説明していたところに男の子のお母さんがやってきて無事再会することができた。男の子はお母さんに会えたことが嬉しくて、あたしたちのことは、もはや意識の中にない様子だったけど、それはそれで良かったと思う。



「ねぇ、燐」
「ン〜?」


案内所を後にしたあたしたちは、また最初みたいに燐と腕を組んで歩いていれば、あたしの中にふとした疑問が頭を過ぎる。


「燐は男の子と女の子、どっちがいい?」



チラリと燐を盗み見るが、先程のような反応はなく無表情だった。だから、自分で聞いたくせにもしかして、そういう願望はなかったのかな、と不安が込み上げる。


「俺は…どっちでもいいわ」


目の前がくらりとした。




けど、









「優希との子どもなら、元気だったらどっちでもいいわ」


「五体満足健康優良児が一番っしょ」そう言って、マスクをずらして笑みを浮かべる燐を見て、目頭が熱くなったのを感じる。一瞬でも、疑った自分が恥ずかしくて悲しくて、でもそんなことも知られたくなくて、自分の顔を隠すように燐の腕をギュッと抱きしめる。


「けど、まァ、追々ってことでしばらくは二人がイイよなァ」
「りん〜っ」
「ンだよ、いやなのか…?」
「…ううん、うれしい…」


燐との子どもは欲しい。けど、そっと撫でてくれる手も優しい声もその気持ちも。燐の言う通り、しばらく二人がいいなと思ったし、ちゃんとあたしとの未来を思ってくれていたことに改めて胸が熱くなった。

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