お忍びデート2



風が吹くとガラスの彫刻が揺れて、綺麗な音色を奏でる。太陽の日が差し込んで、赤、青、緑、黄色などのガラスはよりキラキラと輝きを増す。


「すごい、ね。綺麗な音」


緑に囲まれた中にある美術館。ガラスをモチーフにされた作品が見所のこの場所は郊外にあり、平日ということもあり周りに人はちらほら程度しか見かけない。


人目を気にしながらも、めいいっぱいおしゃれをして、でも必要最低限のカモフラージュとして伊達メガネをかけているあたしと普段は鮮やかな赤色をした髪はカラーワックスにより黒く染められており、同じ黒マスクをしている燐。曲がりにもあたしたちはアイドルであり、その関係は秘密となっている。ただでさえ、ゴシップはご法度。行動も何も人目を気にしなければならないあたしたちだけれど、今回燐の一言によりこうやって一緒にお出かけすることができた。

ちなみにカラーワックスはナルちゃんからのアドバイスだったりする。黒い髪に染め上げられても、マスクをして顔を隠していても、燐の持ち前の雰囲気はかき消せなくて他の一人に燐のことがバレないか内心緊張感があったりもする。




「すげェな、細けっ…」
「このお花…どうやって花びら作ったのかな…」


この美術館に行きたいと言ったのはあたしであり、燐は興味ないかな、と思いつつ提案したら「優希の行きたいところ行こ」なんて言ってくれる。外に出てからのあたしは美術館や博物館が好きだった。自分の世界が広がるから。知らないものを知れる世界がそこにはある。

腕を組んで寄り添っても、周りには人がいないことが幸いしている。いても、割と目上の人たちばかりで、あたしたちに見向きもしない。

今の燐は、みんなに好かれるようなことをしてないのは知ってるし、多分こんなところに来るなんて思っても見てないだろう。けれど、燐は誤解されやすいだけ。いつだって誰よりも物事を考えて知識を得ていろんなことを考えている。だから、どんなことでも吸収して立ち止まらない燐が今も大好きだ。燐の腕にもたれかかるように擦り寄れば、燐がふとこちらに視線を向けてくれたのがわかる。


「どうしたんだよ」
「ん〜、こういうのも良いなぁって思って。燐と二人でゆっくりお出かけするの、」
「お互い、なかなか時間取れねェかったからなァ」
「燐と一緒ならどこでも良いな、って思ってたけど、やっぱり燐とこうやってまた“外”歩けるの嬉しい」


“外”という単語に燐の腕がピクリと反応した気がする。どんな形であれ、今一緒に入れることが幸せだというのに、人は何故こんなにも貪欲になってしまうのだろう。











場所を移動して、ぶらぶらしていれば目に入ったのはかまぼこ屋さん。食べ歩きもできる串に刺した様々な具の入った練り揚げ物が並んでいる。


「おっ、酒と一緒に食ったら美味そ〜〜〜」


燐は店前のメニューとサンプルを見るなり、意気揚々と覗き込む。あたしもつられて見てみれば、大葉や玉ねぎ、にんじん、イカやチーズが入っているものまであり、どれも確かに美味しそうなものだった。


「燐、お酒もあるよ、」
「良いねェ、何か買うか」


お店のおばさんに、野菜天とイカ天の揚げ物、地ビールをひとつ頼めば、オーダーしてすぐにその場で揚げ始める。その間に、地ビールが先に準備されたため、燐に渡せば早速待ってましたと言わんばかりにビールに口をつけた。


「っうっめェ」
「ふふっ、はい。こっちもできたよ」


ぷはっと呑んだビールの味はお気に召したようで、普段からすれば珍しいぐらい表情が緩んでいる。揚げたての揚げ物を、差し出せばそのままパクりとかぶりつく。
 

「っあっつ、ウッマ」
「揚げたてなのに、そのまま行くから…!」
「優希も食いな、美味ェから」


口をモゴモゴと咀嚼しながら、揚げ物の一つを燐は受け取ってから、あたしも一口食べてみれば、揚げたての温かさと一緒に素材の風味が口の中に広がる。


「んっ、美味しい…!」
「だろ、こっちも食ってみ」 


燐は自分の持っていた揚げ物をあたしの口元まで差し出してくれたので、そっちもまた一口。先ほどとはまた違った風味がして、これもまた美味しいものだった。


「ねえ、ビールも一口欲しい」
「イイけど、あんま呑み過ぎンなよ…、優希はすぐ酔うからよォ」
「ん、一口だけだもん…」
 

ビールも好きなのに何故か愛称が悪いのか一番酔いが回りやすいのを知って、燐が少し困ったように笑う。あくまで止めないのが燐の優しいところで、燐が呑んでいたビールももらう。


「呑みやすい…、おいしっ」


クセが強くなくて、さわやかな喉越し。動いていたこともあってか、ビールが喉を通す瞬間も味わいも最高だった。更に言うならば、お供に揚げ物だから、よりぴったりでこれはつい呑みたくなるやつ。そう思って、更に一口呑んでいれば、燐が「はい、そこまで〜」と言ってビールだけ取り上げてしまった。


「もう少し…!」
「ダメに決まってンだろ、そォやって呑んで酔うんだからな…。デート最後まで楽しむなら、今はここまで、な」


ビールの代わり、とでも言うかのように、チュッと唇にひとつキスを落とす。「飲み物なら、他買ってやっからよォ」と言われて、はぐらかされてしまった。

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