お忍びデート



今日はオフの日。しかも待ちに待ったオフ。あたしは朝から決めていた服を着て、普段は結いている髪も下ろしてヘアアイロンで巻く作業を繰り返す。そこから、編み込みを入れて完成!

普段ならキャップを被ってしまうあたしだが今日は違う。時計を何度も確認しては、準備に抜けがないかを見直すが、ソワソワしてしまって落ち着かない。変なところはないか、普段ならこんなこと気にしないのに気になって仕方ない、ぐるぐると同じことを思い考えていれば、玄関の扉がガチャガチャと音を立てる。鍵が開く音が響いた直後に開いた扉から現れたのは燐だった。

いつものラフな格好ではなく、お出かけ意識のおしゃれさを意識した格好だった。普段つけてるヘアバンドもしておらず、いつもと違う姿に内心どきっとしてしまう。


「燐、おはよ」
「よォ、準備できた?」


玄関で靴も脱がずにあたしの姿を上から下まで、余すことなく視線に収めたかと思えば、「可愛い」とはにかみながら、頬にキスをひとつ落としてくれる。


「燐もかっこいいよ」
「ははっ、それは嬉しいねェ」


多分、今のあたしは赤いと思う。いつも燐の方が余裕で正直ズルいけど、そこがまた好きだから仕方ない。


「これ、話してたやつなんだけど」
「へェ…、まあ優希に任せるわ」
「えっ、あたしがやるの…?」
「やってくれねェの…?」


持っていた瓶を見せれば、燐は当たり前のようにやや前屈みになって目線を合わせてきた。何故かあたしがなる流れになってて、良いのかな…って思ったけど、燐がシュンとした顔で見てくる。燐はあたしにどうすれば折れるかをわかってるからこそ、あたしはそのまま折れるしかない。

瓶を開ければ、黒いペーストがたっぷりと入っていた。指ですくって手のひらに広げれば、手が黒くなるが気にしない。既にセットされた燐の髪に真っ黒のペーストを馴染ませるようにつければ、綺麗な髪がだんだんと黒くくすむ。


「ねぇ、やっぱあたしがやるより燐がやっ、ふっ…」


燐につけていたのはカラーワックス。しかも黒いワックスで、つければ毛の色が黒くなるものだった。髪の毛につけて、こんな感じでいいのか分からず、れるがままの待てをしていた燐に声をかけようとしたら、その言葉は遮られてしまった。気づけば、後頭部に燐の手が回っていて、唇を塞がれる。

突然のことすぎて理解するまもなく、あれよというまに口を割って入ってくる燐の舌があたしを捕らえて逃がさないと言わんばかりに絡みつく。


「っふ、ンッ…」


両手は黒いワックスまみれだから、このまま燐の服を掴もうものなら、黒く汚してしまう。けれど燐からの深すぎるキスにただ耐えられるわけでもなく、せっかくセットされていた燐の髪をグシャリと掴んだ。


「ンッ、っふ、ぁっ…」
「っ、かわい…」


やっと離してもらえた時には、息が切れてしまっているというのに、燐は息切れもなくさっきまで触れていた唇をそっと指でなぞった。「リップ…取れちゃったな…」なんていう燐の唇にあたしのつけていたリップの色がついている。目を細めて頬はうっすらと紅潮し、うっとりした表情の燐は、色気が出てて本当に心臓に悪い。普段と違う服装もワックスによって黒くくすんだ髪もその表情でさえ、あたしの心臓の鼓動を早くさせる。


「っり、ん」
「は〜っ、マジでいい加減にしろよな」
「っ、ン…」


何をいい加減にして欲しいのか訳もわからないまま、また燐に噛みつかれるようにキスをされた。チュッと音を立てて離れた時の燐は何やら満足した表情をして、あたしに「手ェ洗ってこいよ」といいながら、ご満悦の様子で自分の髪型をチェックし始める。完全に今のでリップは落ちただろうから、塗り直さなきゃ…。

[ ]









×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -