貴女のための騎士
(返礼祭終了後)
「優希さん発見!」
「あれ、真くん。どうしたの?ビデオなんて回して」
廊下を歩いていたあたしは振り向くと、目線の先にいる人の名を呼んだ。視界に顔は見えないがビデオカメラを構えた遊木真くんがいる。
「今日はちょっと優希さんに来て欲しいところがあるんです」
「ってことで、俺たちと一緒に来てください」
「ふふっ、真緒くんも一緒だったの?仕方ないわね」
真くんに気を取られて気づかなかったが、どうやら最初から一緒にいたらしい真緒くんにも気づく。突拍子もない突然の2人からのお願いだったが、この2人が目的もなく何かをするわけもないため、とりあえず言われるがまま動くことにした。
「優希さん、返礼祭お疲れ様でした。どうでした?」
「面白い質問するのね。あたしは別に参加してなかったんだけど、」
「何言ってるんですか、だって優希さん結構大変だったと思いますよ」
廊下を歩きながら、横にいるあたしにカメラを向けているであろう真くんは器用に歩きながら、けれど何かに躓くこともなく、大きくブレることもなく質問をしてくる、さすが放送部。内容は行われたばかりの返礼祭について。あたしは夢ノ咲の生徒でもなければ返礼祭に参加もしていない。あくまで、外から見ていただけの立ち位置。と、いうよりは少し近い位置で見てたかもしれないけれど。
振り返ってみても、あたしはただの傍観者の1人だったなと思うけれど、反対側を歩く真緒くんは真緒くんで笑っている。
「Knightsもいろいろあったみたいじゃないですか」
「うん、でもこれはみんなの問題だったからあたしはただ観てるだけだったよ」
そう、あくまであたしは傍観者。王様であるレオくんの動向を傍でただ観ているだけ、そこにいていないような存在。
「優希さんって一番近いお姫様がいたからこそ、今のKnightsがあると思うんですけどね」
「あたしはお姫様ってキャラじゃないよ、」
真緒くんは正直、あたしを買い被り過ぎだと思う。姫ってキャラでもなければ、そんな行動もしていない。Knightsのみんなはあくまで自分たちの思い描く騎士道を必死に考えて見つめて創り上げてきた。そこにあたしは関係ないのだ、関係してはいけない。
そう、守るために手放すことしかできない無力な自分が、また何かを得るなんてバカバカしい話なのだから。
(だからこそ、あたしもそろそろみんなとお別れしなきゃ…)
お目当ての部屋の前について、扉を開ければ真っ暗な室内が広がっていた。本当に何もついていない室内に、電気を手探りで探し当ててカチッと触れる。
スイッチを押したと共に視界が明るくなり、室内を確認しようとすれば突然肩を掴まれてグルリと体の向きが180度回転する。訳もわからず、現状を把握しようとするが完全に意識が追いつかなくて、気づけば不自然な位置にあった椅子に座らされていた。
『貴女に逢えた 奇跡がくれた』
目の前にはいつの間にかレオくん、泉くん、ナルちゃん、凛月くん、司くんの姿があり、突然始まったのは、Grateful allegiance。Knightsのユニット衣装を身に纏い、ステージからファンのお姫様たちに向ける表情は全てあたしに注がれている。
泉くんだけが歌いながら歩み寄り、あたしの手を取り歌詞にあわせて「愛を込めて」と囁いた。
そこからは、完全にKnightsのオンステージであり、凛月くんのターンでは耳元で「愛を込めて」と。
歌詞を知ってるはずなのに、観ていたはずなのに、今までのことを思い出して、歌詞が重なって段々と視界がぼやけていくのがわかる。
ナルちゃんの「愛を込めて」時は、何処から出したのかわからないけれど、頭の上にティアラのようなものを乗せながら。
『こうして傍にいて』
『見つめる瞳へと』
『届けたいよ』
『望むメロディー』
あたしが思っていた気持ちを打ち消すように、紡がれる歌詞。
レオくんに拾われて、助けられて、そのためのお返しとして恩を返すつもりだった。なのに、あたしは結局何もできずに、壊れていくレオくんの傍にいるしかできなくて、悩む泉くんに何も言ってあげられなくて…、何かをしてあげられたわけではない。それなのに、
いつもレオくんのことと一緒に気にかけてくれてた泉くん。
何も知らないあたしにいろんなことを教えてくれたナルちゃん。
何も知らないフリをして一緒に過ごしてくれた凛月くん。
どんなことでも話し、姉のように慕ってくれてた司くん。
拾ってくれた時も、自分自身が壊れてしまった時も、王として戻った時も、ずっと傍に置いてくれてたレオくん。
結局、あたしは彼らに常に守られていたんだと気付かされる。溢れる気持ちが止められなくて、ポロポロと瞳から溢れ出す。
視界がぼやけていてもわかるのは、目の前にレオくんがいてレオくんのおでこがあたしのおでこにコツンと当たる。そして落ち着いた優しい「愛を込めて」をあたしにくれた。
(なんでこんなにも優しいのだろう)
ポロポロと涙が止まらないあたしに司くんからの「愛を込めて」。その手には大きな青い薔薇の花束を差し出しながら。
『We'er Knights for you』
「っ…な…」
曲が終わっても涙が止まらない。そんなあたしを見て、レオくんが困った笑みを浮かべて歩み寄ってくる。
「優希、ごめんな。いっぱい心配かけて」
「優希がいたから、俺たちは支えてもらってた」
「けど、優希ちゃんは甘えることをしないから不安だったのよ」
「優希は甘え下手だからね〜」
「ファンの方々もそうですが、私は優希お姉さまにこれからもKnightsのそばにいてほしいのです」
「俺とセナは卒業する、バラバラにもなるかもしれない、それでも俺たちの傍にいて。」
だって優希は俺たちの大切なお姫様だから。
逢えたことが奇跡だから。
あたしが2人の卒業をきっかけに離れることを決意していたこともバレていたようで、みんなから全力で止められた。
ボロ泣きしたあたしの様子もKnightsのみんなからのファンサも、泉くんの発案から真くんと真緒くんに頼んで誘導、撮影をしてもらっていたらしい。一部始終を全てカメラに納められていて、冷静になった瞬間に正直とても恥ずかしくなったのもいい思い出である。
後々に、レオくんの計らいもあって、Knightsの裏方仕事を中心にフォローすることになり、そこからニューディの事務所に引き込まれて自分名義でアイドル活動を始めることになった。と言っても、活発的な活動は控えたいとあたしの意思もあり、楽曲提供は基本レオくんからだけなどという縛りをつけた。
これがきっかけで、後にあたしは最愛の人と再会することになったのはまた別のお話である。
(ブルーローズの花言葉:奇跡)
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