FesとDrink



「優希お姉さま!こはくん!こちらにいたのですね」
 

一緒に買ってきたものを食べていれば、パタパタとやってきたのは司くんだった。司くんは、何やらドリンクを3つ両手に抱えるように持っている。さしてあるストローの太さとパッケージからして、なんとなく予想はついた。



「坊もえらいぎょうさん買おてんな」
「ふふふ、是非ともこはくんに食して欲しいと思いまして…!そして優希お姉さまもご一緒したくて買ってまいりました!」


司くんが持っていたドリンクをテーブルに一旦乗せれば、これまた不思議そうな表情でドリンクの中身を覗き込む。


「…これ、カエルの卵入っとらん…?」
「カエル…?」
「なっ!違いますっ!これはTapioca Milk Teaですっっっ!」


びっくりした、こはくんはタピオカを見てカエルの卵だと思ったようだ。うん、まさかその観点はなかったから、そんな風に言われちゃったら、ちょっと、飲むのを躊躇したくなる。ちなみに司くんは、今流行りのタピオカを前に知ってからハマってしまって、ちょくちょく飲んでいるのを見かける。今回屋台で出ているのを知って、わざわざ買いに行ってきたようだ。


黒い大きな粒に、その粒が吸えるようにと刺さっている太いストローが特徴。こはくんは、チュロスの時よりも更に不可解そうに眉間に皺を寄せた表情でドリンクの底からゆらゆらと揺らしながら眺めている。


「とりあえず騙されたと思って飲んでみてください」


そう言われて飲まないわけにはいかないものだ。こはくんは、ストローに口をつけて吸い込んだ。ストロー越しにタピオカも一緒に吸い込まれていくのを見ていれば、口の中に入った瞬間、咀嚼を始めたと思ったら驚きの表情に切り替わる。


「んっ、モチモチしとる…!」
「このモチモチが美味しいのです」


噛めば噛むほどモチモチと弾力が伝わってくる。ミルクティーの味とともにこの噛み応えがハマるものだ。しかしタピオカには一つだけ、問題点がある。



「でんぷんでに色付けで黒糖とか入ってできてるから、ハイカロリーだけどね」
「そうなんか」
「はい、なので食べすぎては良くないのです」
「泉くんに見つかったら怒られちゃうね」
「はい、瀬名先輩に見つかったら怒られます」
「…せや、どないして買おてきたんや…」


司くんと一緒に淡々とタピオカを口にする。だってここはスタッフが使う休憩スペース。いつ何処から泉くんがやってくるかわからないし、こんなにもカロリー摂取してるのを見られたら、黙ってるわけがない。
まあ、確かにこはくんの言う通り、どうして買ってきたのかとなるわけで。


タピオカを飲みながら、司くんをチラリ見れば、司くんもあたしと同じようにタピオカミルクのストローを口にして、こちらを見てきた。


「だって、ね」
「そうですね、こはくんにも知って欲しかったからですよ」
「美味しいもの、こはくんにも是非知って楽しんでもらいたかったから」


司くんに聞いたのは朱桜のために、こはくんはいろいろなことをしてきたらしい。なので、外のことをほとんど知らないと聞いている。外を知らない、と言うのはまるで昔の自分を見ているようで。だからこそ、あたしが体験したように、こはくんにもいろんなことに触れて知って欲しいと思った。

それは、楽しい出来事も、美味しいものも同じ。

その気持ちが伝わったのか、最初は面食らったような表情をしていたこはくんも、満更ではなさそうに笑ってくれた。


結局その後、泉くんに見つかって司くんがめちゃくちゃ怒られたのは今のあたしたちは知らない。

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