ポニテとヤキモチ



混み合うお昼の時間帯も過ぎ、休憩がてら遅めのお昼にやってきたのはESの食堂。案の定、人はほとんどおらず、のんびりしたい理由であえて四人がけの座席についた。

適当に料理を選んで、スケジュールを確認していたら、オーダーしたものを作ったのはどうやらシフトで入っていたニキくんだったらしく、あたしの座るテーブルまで運んできてくれる。オーダーしてない料理もテーブルに並べるから、不思議でニキくんの行動を見ていたら、「僕、これから休憩なんで一緒食べてもいいっすか?」って。断る理由もないので、「もちろん、良いよ」と了承した。


「そういえば、優希ちゃんって昔お団子ばっかだったのに最近ポニテ多いっすね」


そんなことを言ってニキくんは自分用に作った炒飯をスプーンいっぱいに乗せたにも関わらず、キレイに口の中へと運ぶとモグモグとさせた。ニキくんがいう昔というのはおそらくバイト時代の話だろう。


「あの時はバイトしてたからね、後ろで結くならまとまってる方が良いかなって」
「いっつもキレイなお団子だったんで、後ろ姿見るたびに美味しそうだな〜って思ってたんすよね〜」
「ぷっ…それはニキくんらしいね」


バイト時代、後頭部にお団子を作ってまとめていたけれど、まさかニキくんがそんな風に思ってただなんて知らなかったし、けれどニキくんらしすぎて思わず噴き出してしまった。


まあ、ポニーテールでも支障はなかったんだろうけれど、あの頃のあたしは正直あまりしたくなかったってのが理由だったりする。


(だって、燐が好きって言ってくれた髪型だったから、里を出たばっかりのあたしには燐のことばっかり思い出すのが嫌でやらなくなったんだよなあ)



「そういえば、燐音くんてポニーテール好きなんすかね?」
「…へ、なんで…?」


昔を思い出したことにより、まだ拭いきれてない過去まで思い出して、なんとも言えない気持ちになったし、どうやらボーッとしてしまっていたようだ。ニキくんの口から突然、燐の名前が出てビックリしたし、一瞬考えてたことが悟られたのかと思い、ドキッとした。


「だって聞いてほしいんすけど!!!燐音くん、前に料理してたら後ろ姿だけはお嫁さんって感じだなって言われて、僕食べられそうになったんすよ〜」
「…お嫁さん…」
「結局、からかわれてるだけだったみたいなんすけど、あの時は僕もお腹減ってる時だったんでホント勘弁してほしいっす…」


燐は、ニキくんにそんなことを言ったんだ。ニキくんは確かに料理もできるし、故郷を出た燐のそばにずっといてくれた。性格も優しいし…うぅ、そんなことを考えてたら燐はニキくんといたほうが幸せなのでは…?って思わずにはいられない。
そんなのやだ…燐と離れたくないし、ニキくんにもあげたくない…。でもそれも全部決めるのは燐だ、あたしではない。


あたしは一度、燐の側を離れた身。燐のために何もできなかった、だからあたしが燐に対して何かを言える筋合いはない、と思う。モヤモヤした感情が、胸の中に広がり息苦しささえ感じる。


「あ、えっと…優希ちゃん…?大丈夫っすか?」


顔色悪いっすよ、とニキくんが心配そうな表情を浮かべて覗き込んでくる。相当表情に出てたのか、と言われて気づき、「大丈夫だよ」と、必死に笑って見せながら、心の中ではあたしもまだまだだな…と痛感した。


「そんで、さっきの話なんすけど」


あたしの大丈夫を鵜呑みにしてくれたニキくんは、また一口パクリと炒飯を頬張りながらさっきの話の続きを口にする。正直言って、あまり聞きたくないのだけれど、と思ってもそれは口にできない。


「別の日に酔っ払った燐音くんが言ってたんすよね、」



ニキくんはズズズとスープを流し込む。



「その髪型って、手放したくないぐらい大切な人がいつもしてたから、それを思い出すんだ〜って。だからポニテ見るとお嫁さんってなる〜って」



なっははと笑いながら、ニキくんの言った言葉にあたしは一瞬で時が止まった気がした。



「正直、その時何の話っすか?って思ったんすけど、僕もお腹減ってたから食べながら聞いてたんで適当に流しちゃってたんすけど、今思えばそれって優希ちゃんのことだったんだなって」



ニキくんがあたしの気持ちに気付いてるのか気付いてないのかわからない。けれど、今のニキくんは、すごい優しい目をしてあたしを見てる。多分、今のあたしは完全に豆鉄砲を喰らったような表情をしている気がする。



「燐音くん、いっつも言ってたっすよ。探してる奴がいる、アイドルになればその人に見つけてもらえて、会えると思うから俺はそのためにもアイドル続けるんだって」

「燐が…」

「そんな燐音くんの気持ちに完全に感化されちゃって僕も一緒にコンビ組んだりもしてたんすけど、現実はそんな甘くなくって結局途中で離脱もしちゃってたんすけどね〜。だから、ホント良かったっす!」


そう言って素直に喜んでくれるニキくんの笑顔があまりにも素敵で、気づけばあたしの中にあったモヤモヤも消えていた。むしろ、ニキくん相手にモヤモヤして申し訳なく感じたぐらいだ。それもまた気付いてるのか気付いていないのかわからない、けどニキくんは、そんな気持ちも吹き飛ばしてくれそうな笑顔でなっはは!と笑う。


「僕はいろいろ思うことはあっても、最後には燐音くんの幸せを願ってるし、けどそれは優希ちゃんにも言えることなんで、燐音くんで悩みがあったら言ってくださいね!役に立つかわからないっすけど!」


その気持ちが嬉しくて、目の奥がじんわりと感じるのを堪えながら、あたしは小さく「ありがとう」と呟いた。

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