蜂と嫁。後編



場所と時間は変わって優希の家。彼女の発案により、メンバーは家にお邪魔していた。
日中、燐音の爆弾発言により、カフェではニキとこはくが大混乱を引き起こしていた。具体的には、ニキは「優希ちゃん正気っすか?!こんな!燐音くんで!良いんすか?!」なんて口走り、燐音をまた怒らせていて。こはくはこはくで、「燐音はんの奥さんおったんか…?」とぶつぶつ言っていたとか。


あれから、優希とニキにより夕ご飯を振る舞ってもらい、成人組はお酒を、未成年組はお茶やジュースを飲んでいる。

燐音より、優希が同じ故郷育ちであること、許嫁だったこと、自分が優希を探していたことを打ち明けられた。いろいろ多い情報量にメンバーは一度は混乱するも、燐音が珍しくふざける様子もなく、話す表情を見て各自がその事実を咀嚼して飲み込む。


「しかし、考えれば考えるほど天城にはもったいないと思うんですが」
「だよなァ〜、俺っちもそう思う」


燐音といえば、あぐらをかいて座る自分の足を枕にスヤスヤと眠る優希の頭を撫でていた。その目は、優しく愛おしそうに見つめている。普段では見ることのない表情に、HiMERUはずっと思っていたことを口にする。優希と言えば、自分が知る限り燐音とは似ても似つかない人物像だと認識している。そんな彼女が彼の許嫁であり嫁と言われれば、どういうことだ?と思わずにはいられない。まあ、話を進めていけば、お互いの意識だけの話であり、世間的社会的には何かを届け出したりしてるわけではないとのことらしいが。

その考えは燐音にもあったのか、ハハっと声を上げてテーブルに置いてあった缶ビールに手を伸ばした。


「ンだよ、優希、酒弱ェな…まだ半分も残ってんじゃん」
「燐音はん、良かったな」
「おう…、こはくちゃんには助かったわ。ニキと違ってよォ」
「ううぅ…だって知らなかったんすから…不可抗力っす…」


2人の再会の一部を見ていたからこそ、無事に落ち着いたことを知ってホッとするこはく。逆にそれぞれとずっと接点があったにも関わらず、そんなことを何一つ気づかず、知らずでいたニキは、先ほどから燐音に投げかけられる言葉の一つ一つをグサグサっと己に刺さりながら、残った料理をひたすら食べていた。


「ただまあ、会わせたかった理由はただの紹介じゃねェから」
「と、いうのは」
「こはくちゃんなら、多少なりともわかるだろうけどさ。優希は他人優先なんだわ」



ビールを一口、喉に流しては、ゆっくりと言葉を選ぶように息を吐いた。




「弟の一彩には激甘ちゃんで、俺にだって次期君主ってこともあってだろうけど、何かあったら自分より俺のこと。昔から甘えてくるかと思えば、いざという時に限って自分のことは二の次で、自己犠牲だって厭わない。なんなら、自分のやってることが自己犠牲だって気づいてねェかもしんねェけどさ」
「燐音はん…」
「俺っちは、一度こいつを手放しちゃってるんだわ。それは俺の意思じゃねェし、望んでたことでもない。もう離したくねェって思ってるけど、俺らがいるのはこのアイドル世界だろ?正直言って何が起こるかわからねェ」


その言葉を聞いて、HiMERUは目を細める。脳裏に浮かぶのは、ソロ活動中に経験したアイドルでの世界の闇。


「ましてや、優希は所属さえ違う。辞めさせるのも一つかもしんねェけど、今辞めさせても、理由がバレれば俺だけじゃなくて、お前らにも迷惑かけるのは目に見えてるからなァ」


燐音は今まで自分がしてきた行動により、自分自身もユニットの立ち位置もまだまだ世間的には安心とは言えない、むしろこれからだ。これからの行動で全ての流れが変わる大切な時。


「だから、俺からの自分勝手な頼み」
「頼みっすか…?」
「優希が、俺の知らねェところで、もし何かあったとき、そん時は俺の代わりに助けてほしい」


ずっと強気で相手を挑発してる姿ばかり見ていた。だからこそ驚いた。あの、MDMで渦中にいたCrazy:Bのリーダーである天城燐音、あの男が今頭を下げている。それはたった1人の女性のために。


「燐音くん…、」
「ずっと後悔してたものが帰ってきたンだ。だから、」
「…事情は何となくわかりました」
「坊も世話になっとる、ゆうとったから、仕方あらへんわ」










優希が目を開けると、そこは自分の住み慣れたベッドから見上げる天井だった。あれ、いつのまに…と思ってまだ眠い頭を働かせてみれば、確かクレビのみんなとご飯を食べていたはず…と思い出す。しかし現状を見るに、それはおそらく終わっており、みんなは帰ったのであろう。あまり普段から呑まないお酒を空きっ腹で呑み始めたこともあり、いつも以上に酔いが回ってしまったのかと悟る。やらかした、と思って頭を抱えていれば、横から「頭いてェの…?」と声がした。


「燐…ごめん、寝ちゃってた」
「ンー良いって。疲れてたのに悪りぃな」


燐音は優希の頬に手を滑らせて、顔を自分の方に向かせれば、目蓋にひとつキスを落とす。

「んーん…、みんなに紹介してくれたの嬉しかったから」
「そっか」

薄暗い部屋の中でも燐音が、嬉しそうに優しく微笑んでいるのがわかった。優しく撫でる指が心地よくて、安心する。


「燐…ステキな人たちに出会えて良かったね」
「まァな」
「燐、」
「ンー?」
「ありがと…」


優希のその言葉の意味は、会わせてくれたことへの感謝か、また変わらずそばに置いてくれたことへなのか、もしかしたらどちらの理由かもしれない。

どちらにせよ、優希の言葉を聞いて安心した燐音は、優希を抱き寄せてまた眠りについた。

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