蜂と嫁。前編



まだMDMが事すぎて、みんなの記憶に真新しい、とある日の出来事。

外の日差しは強く、歩けばすぐに汗が滲むほどの気温。この夏に大きな騒ぎを引き起こしたであろう天城燐音という1人の男によって、HiMERU、椎名ニキ、桜河こはくは、とある街中のカフェに呼び出されていた。


「ここ、僕の昔のバイト先っす」


氷がたくさん入れられたアイスコーヒーのストローを一気にズズズっと啜っているニキがサラリと呟いた。何故ここに呼び出されたのかは、あまり気にしていない様子である。


「せやかて、どないな理由でこんな場所に燐音はんは呼び出しおったんや」
「HiMERUも同感です。肝心の天城は、まだ来ないのですか…?呼び出しておいて本当に自由な人ですね」


こはくとHiMERUはニキとは異なり、露骨に不満な表情が出ている。チラリと時計を見てみれば、指定された時間より10分ほど経過しているではないか。やり場のない気持ちをため息にこめて吐き出した時、「ちわ〜っす」と軽いトーンの声が店内に響いた。


「遅刻や、燐音はん」
「悪りぃ悪りぃ、仕事が伸びててな」
「おや、天城は今日仕事あったんですか?」
「俺っちじゃねェよ」
「じゃあ、誰のですか。そもそも、こんなところに呼び出してなんの用なんです?」


彼らの座っていた座席までやってきたにも関わらず、座らずに椅子の背もたれに両手を乗せて、ケラケラ笑う燐音。悪びれた様子もなく、何を言っても無駄ただと思ってHiMERUが本題に切り込みを入れる。


「あァ、紹介したい奴がいてな」


いつものように掴み所なく笑っていた笑みが、ぴたりと止まり、燐音はチラリと後ろに視線を向けた。そういえば、今まで気にしてなかったが、気づけば燐音の後ろに背丈で隠れてちゃんと見えてなかったがもう1人の人影がある。

燐音に誘導されて姿を表したのは1人の女性だった。こはくは見覚えがあったのか、「坊の…」とボソリと呟く声が耳に入る。しかしその声よりも大きな声が店内に響いた。


「んっぐっ、優希ちゃん?!」
「うっそ、ニキくん…!」


サンドウィッチを片手に口に含んでいたものを喉に詰まらせかけつつ、驚きの声を上げたのはニキだった。驚きのあまり、その場で立ち上がり目の前の女性を見て目をパチクリさせる。それはどうやら、相手の方も同じだったようだった。


「ハ?んだよ、ニキ、お前知り合いなのかよ」


更に驚くべきは燐音だった、燐音はドスの効いた低いトーンの声で、ハ?と呟く。その目は、細く鋭く、慣れてない人であれば正直目だけで殺されると思ってもおかしくないぐらいの怒気を感じさせるもの。


「いや、えっと、まあ…てか!なんで2人が一緒にいるんっすか?!」


ニキは直感的にヤバい、と何かを察したのだろう。元々思っていた疑問を投げかけ、燐音からの質問からあえて気を逸らす。よく見てみれば、燐音は一緒にいる優希と呼ばれた女性の腰に手を回して隣に立っている。その時点で、なんとなくの予想はついているものの、思い込みもいけないと自分自身にまだ待て…と言い聞かせる。


「…こはくちゃんは、何となく知ってンだろうけど、ほら。挨拶」


燐音はニキの考えていることが予想ついてるのだろう、更にひと睨み効かせれば、ニキから「ヒィッ」と声が上がる。それを見て、とりあえず良しと思ったのか、優希に視線を送って話を促すと、彼女は小さくコクリと頷いて彼らに視線を向けた。


「あっ、えっと、改めまして。水城優希です。今はNEW DIMENSIONに所属してます」


誰しもが認識のある人物だった。ニキは昔バイトで、こはくは先日朱桜司たちといたところを、HiMERUに関してはソロ活動時代から彼女の存在は目にしていたし、直接的に同じ仕事に携わってはいないものの、間接的な認識はお互いにしていた。

そんな彼女が何故ここに?と、それぞれが思わずにいられない。燐音とはあまりにもタイプが違いすぎる。もしもの仮定が頭の中に広がるが、あまりにも接点がわからなすぎる。
彼らの頭の中を読んだかのように、燐音は優希を抱き寄せてこめかみに口づけた。そして今までにないぐらいの笑顔で次の言葉を放つ。



「優希は、俺っちの嫁ちゃんなんで覚えとけ」

[ ]









×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -