コンビニ店員Aの証言



俺はチェーン店で有名なコンビニのアルバイト。平日の夜だったり、休日の朝だったり、時間が空いた時にはバイトとして働くコンビニにシフトを入れている。

うちのコンビニは、他のコンビニとは少し違うところがある。ファストフードの充実だ。最近では他のコンビニでも珍しくなくなりつつあるイートインがあり、チキンやポテト、バーガー類の他にソフトクリームやパフェなども充実している。それが売りであり、夏はひどい時にはひたすらアイス類を作らなければならず、暑いフライヤーのあるバックヤードからなかなか出られないことだって珍しくない。


ただいうならば、立地のおかげか時給はコンビニの中で割といい方であり、融通も効くのが利点ということ、慣れてしまえば苦ではないという理由により、このバイトを長く続けているとも言えよう。



「いらっしゃいませー」


自動ドアが開き、お客さんの出入りを知らせる音が店内に響く。その音を聞くだけで、もはや染み付いてしまったテンプレを口にしながら、来店者の確認をした。

(水城優希だ)


どうやら、このコンビニは水城優希の常連ポイントらしく、こうやって姿を現すのは珍しいことではない。キャップを被り、薄ピンクのマスクをしているが俺は知っている。彼女は間違いなく水城優希であるという確信があった。最初は可愛い人だなって思ってたけど、後にテレビなどで見るようになって驚いた記憶がある。俺が意識的に認識し始めた頃というのは、きっとまだ駆け出しの頃なのだろう。

あれよあれよといううちに、ビック3と言われるアイドルグループの1つ、Knightsと見かけることが度々あったりもして、特に最近はメディア露出が更に増えたように感じることもあり、彼女の成長を陰ながら応援していたりする。まあ、俺はあくまでコンビニ店員。だからと言って、彼女に何かアプローチをするわけでもなければ、周りに言ったりもしていない。これはあくまで俺だけのものだ、と心に決めている。


入り口からぐるりと店内の奥に移動した水城優希を横目に、もう1人入ってきたであろう客に今更ながら俺は気づいた。その客は、あまり見ない顔の男でレジ横にあるファストフードのメニューをずっと見つめていた。

癖のある赤い髪に黒いマスクにカジュアルなコートを着ており、オシャレなやつだな…と思いながら、俺の視線に気づかないことを良い事にぼんやりとそいつを眺める。ターコイズブルーの目はとても綺麗な色をしていて、メニューをあまりにも真剣に見るものだから、優柔不断なやつなのか?と思ってしまうほど。正直いうならば、さっさとメニューを決めて欲しいところなのだが…。

そんな俺の気持ちとは他所に、気づけば目星いものを選んできたであろう水城優希がカゴを片手にレジまで来てしまった。


(あぁ、ここで決まったりしたら、ゆっくりレジできないじゃないか)


正直、今この時間は混み合ってる時間帯ではないが、コンビニ店員である以上レジに複数並んだ際には手際の良さを求められる。ましてや、同じシフトで入ってるやつは今ちょうどドリンクの補充でここにはいない。ヘルプを呼んでもいいが、正直この人数で呼ぶのもどうかと思う。


俺は内心ため息をついて、水城優希が俺のいるレジにカゴを置くのを待つ事にした。いつもなら、この流れでゴトンと置かれるはずだった、しかし。



「ひーくん、何食べたい?」


俺は驚いた、水城優希は先程からメニューをガン見していた男に声をかけている。しかもかなり至近距離で、ぴったりと寄り添うぐらい。身長差があるため、彼女の頭の上の位置に男の顔があり、男の方はやってきた水城優希のカゴを持っていない方の腕に自分の腕を絡み付かせて頭に頬を擦り寄せたではないか。


(えっ…彼氏か…?)



正直驚いた、今までそういう浮ついた話を聞いたこともなければ、見たこともなかった。Knightsと仲が良いことは有名だが、彼らはどう見てもそういう対象ではないのはわかる。どっちかっていうと振り回されてないか、と俺は思ってるから。

だから驚いた。しかし俺はバイト中にマスクをしているため、多分この驚きは気付かれていないはず。ポーカーフェイスを決めているつもりだが、あくまでつもりなのでマスクがあって良かった。さすが、ウイルス、細菌だけでなく、人権保護もしてくれるマスク。



「ウム、オススメはどれなんだろうか?」
「こういうチキンとか美味しいけど、帰ったらご飯あるからね。食べるならアイスにしよう。ここのソフトクリームだけでも濃厚で美味しいよ?」


(えっ、ご飯?水城優希がご飯作ってくれるのか?それはもう確定ではないか?)


「バニラは濃厚だしチョコも美味しいけど、チョコだけだと、かなり甘ったるいかも。ご飯もあるし、ミックスだったらどっちも楽しめるよ」
「じゃあ、それにするよっ」
「ふふっ、じゃあ一緒に食べながら帰ろっか」


水城優希は、男の言葉にふふっと笑いながら、持っていたカゴをレジに置きながら、メニューを横目に「あとミックス2つ、そのままで」とオーダーをしてきた。

俺はポーカーフェイスを決めて、「はい、ミックス2つ」と言いながら、レジのパネルをタッチする。その後は、カゴに入っていたミネラルウォーターなどの飲み物をスキャンして袋に入れ、お会計をする。

オーダーレシートを出して、一応番号の記された方を手渡して「少々お待ちください」と言葉をかけて、フライヤーのあるバックヤードに移動した。消毒した手でコーンを取り出し、レバーを引けばミックスのソフトクリームがゆっくりと降りてくる。一巻き、二巻き…とぐるぐる回る回数を確認しながら、二つのソフトクリームを作った。よし、我ながら綺麗なシルエットを作り上げたと思う。


それをそのまま、レジの前で待つ彼女たちに手渡すべく移動すれば、水城優希の方がそれに気づいて、にっこりと目を細めながら寄ってきた。ちなみに、男の方は変わらず彼女にピッタリである。


「お待たせしました、ミックス2つです」
「ありがとうございます」


水城優希は俺からソフトクリームを2つ受け取ると、軽く会釈をしてくれた。マスクをしていてもわかる、やっぱり可愛い。しかし彼女からすれば、俺はただのコンビニ店員。すぐに視線を外されて、ぴったりとくっついていた男にソフトクリームの1つを手渡した。


「溶けて溢さないように気をつけてね」


あぁ、俺に言われたわけではないのに、彼女の配慮が身に染みる。まるで母か姉のようだな、と思ってしまう。

そのまま2人はコンビニを後にした。外に出てマスクを少しずらしてソフトクリームを一口、口にしたのが見えるが、なんて言ったのかはわからない。しかし、遠目でも見える笑顔からするに、満足してもらえたのだろう。



とりあえず、俺は今日見たことも胸の内に秘める事に決めた。

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