行方知れず



いつものように仕事を終えて、時間を確認してポチポチとスマホをタップする燐音。送信ボタンを押せば、ポンとタップした内容が画面に現れて、相手に文章が送られたことが記される。

送られたばかりのそれに並ぶのは送信した時間のみ。既読がつくのはどれくらいあとだろうか、そんなに上手くすぐに既読がつくと思ってもいないので、そのままスマホを後ろのポケットにしまい込んだ。

















場所はシナモン。Crazy:Bのメンバーで集まるや否や、こはくとHiMERUの2人は燐音の態度に目を白黒させる。


「…なんや、燐音はん。」
「あーそれはっすねぇ」


なはは…となんとも言えない笑いを浮かべるニキが、なるべく燐音に聞こえないよう小声で話す。


「実は…優希ちゃんと連絡が取れないらしいっす」
「珍しいですね、喧嘩でもしたんですか?」
「燐音くん曰く、そういうのはしてないらしいっすよ〜心当たりがないし家に行ってもいなかったらしいんで、燐音くんガチでイライラしてるんすよ」
「どのくらい連絡取れへんの?」


小声で話す3人の視線の先には、椅子に太ももに両肘をついて、前屈みになって項垂れてる頭を支えて座っている姿。ただそれだけでなく、片足は、小刻みに揺れているので燐音の表情が見えなくても心の内があからさまだった。


「…3日ぐらいっすかねぇ」
「それはもはや捜索願いでも出すべきではないのですか?」
「でも、アイドルが行方不明になったりしたら、逆にニューディが落ち着いてないって燐音くん言ってたっす」
「確かに、坊とか騒いでそうやんな」



うーんと悩むこはくを横目にHiMERUは自分のスマホを取り出す。


「本当ですね、4日前の更新で止まってますね」


HiMERUのスマホに映るのは優希のSNSでの公式アカウント。最後に更新されたのは4日前であり、最後に食べたであろうデザートと共にお疲れ様でした!と言葉が書かれている。



「SNSも更新してないってなると、」
「やっぱ燐音くん捨てられちゃったんすかね」
「アッ???ニキ何つった…?」
「ひぃっ、…!」


先ほどまで、少しも反応を見せてなかったので何処から聞いていたのか、最初から聞いてたのか、実際問題聞こえてないが、何かを察したのかわからない。わかるのは、燐音がドスを効かせた低音でニキに対して容赦もない睨みを効かせているということ。

まさか燐音が反応するとは思ってもみなかったニキは、予想外のことに驚き、意図せず上げた声が裏返る。


燐音はニキの発言が聞こえていた。最初から、最初から聞こえていたのに反応を示さなかった。そんなことよりも、優希の行方がわからないことの方が考えるべきことであるからだ。弟の一彩に聞いても分からず、あんずも連絡が取れないと言っていた。


持ってる合鍵で家に行っても、生活感がなかった。家具などは何も変わっていないが、冷蔵庫を見ても優希にしては珍しく大したものが入ってなかった。わかりやすいのは野菜や肉など消費期限になるものがなかったこと。


いなくなった理由に心当たりがなさ過ぎて、また自分の知らないところで何かが起きているのではないかと不安になる。

また、自分の前からいなくなってしまったのではないかと思いたくもない答えばかり、脳内にチラつく。

息ができない、息とはどうすれば体に取り込まれるのかすらわからなくなりそうだった。


ギリっと奥歯を噛み締める。


ジワリと口に広がる血の味で、無意識的に口の中の粘膜を噛みちぎっていたことを味覚で自覚させる。




「あ、いたいた!」
「優希ちゃん?!?!」


この場の空気に似つかない声色。なんなら、皆が思い浮かべていた声の主がシナモンに通ったと思ったら、ニキの声もそれに続いて響く。


「探しちゃったよ〜みんなにお土産あるんだ」


誰しもが、探しちゃったって探してたのはこっちだよ!と思わずにはいられず、しかし口にすることもできずに、心の中で呟く。

優希の手には大きめな紙袋を持っており、テーブルの上に乗せるとその中からまた袋と何かの土産であろうものを、笑いながらそれぞれ移し替えている。


「レオくんと遠征だったんだけど、出発前日にスマホ落としたら、割れちゃってね。使えてたんだけど、洗い物した手で触ったら濡れちゃったみたいでそのまま動かなくなっちゃったの。でも仕事で遠征だし、修理出す暇も買いに行く暇もなくってそのままだったから、なんか連絡してたらごめんね…って思ったんだけど」


笑いながら、サラリと出てきた情報量。ここまでスラスラと喋ってから、周りの視線に気づき、あれ…?と動きを止める優希。

HiMERUは「そういうオチでしたか」と呟き、ニキは「なっはは…」と笑うだけ。こはくに関しては、無言で首を横に振る。


「…ごめん、なんかあった…?」
「優希ちゃん、連絡取れないしSNS更新されなくって、行方不明になったかと思ったんすよ〜!!!」
「坊に聞いとったら、今返信きた…ほんまやわあ」
「無事で何よりです、遠征お疲れ様でした」


各々、出た言葉を聞き、優希はみるみる表情を強張らせる。ニキ、こはく、HiMERUから視線は自然と先程から一言も喋らない燐音の元へ。視界にずっと入っていた燐音に焦点を合わせた瞬間、グイッと引っ張られる腕。テーブルにお土産たちを広げたまま、優希は引かれるままシナモンを後にした。











連れてこられたのは非常階段で、重い扉がガシャンと音を立てたのを耳にしながら、燐音の腕にギュッと閉じ込められた。

加減をしらないというように、どんどん増していく力に息苦しさを覚えつつも、あえて優希は何も言葉にせずにいた。無言という沈黙が続く中、しばらくして優希が「燐」と名を呼べば、少しだけ腕の力が緩むのがわかる。そのまま、身を捩らせて、燐音の両頬に自分の両手をそっと沿わせる。


「燐、ごめんね」
「…いなくなったかと思った」
「泣いちゃった?」
「生きた気がしなかった」


見上げる優希の瞳には、自分の頭よりも高い位置にある燐音の顔が映る。下を向いていることもあり、顔は陰り目を細めて、まるで泣いてるような表情だった。互いのおでこをコツンと当ててそっと目を閉じる。至近距離により、相手の熱と吐息が伝わってくる。


「あたしは寂しかったよ」
「優希…」
「燐、今日は一緒に帰ろ」
「ン…」
「はやくスマホ、なんとかするね」
「そうして。じゃねェとマジで無理」


切実に呟く燐音の言葉に優希は、ふふっと笑った。

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