猫ときつね



ソファーに座り、缶ビールを片手にテレビを観ている燐。テレビから聞こえるのは、バラエティ番組を見ているらしく、ワイワイした声が響き、内容に合わせて燐が笑っているのがわかる。ちょうど燐からは死角の位置であるベッドサイドで着替えた服装を鏡の前で一度チェックし、問題ないことを確認。


「りーんっ、見て見て!」


じゃーんって両手を広げながら、燐の前に登場してみたら、燐は不意をつかれたような、目を見開いて一瞬驚いた顔をしていた。しかし、すぐに状況を飲み込んだようで、ビールをテーブルに置き、ちょいちょいと手を招いてくれる。


「どうしたンだ〜、ソレ」
「あたしがデザインしてみたの」
「ン〜、かわいいじゃん。ネコチャン?」


そう言いながら、被っているフードに手を伸ばす燐。あたしの今の格好は、バーガンディー色のパーカーに黒いスカート。パーカーはオーバータイプでお尻のあたりまですっぽり包まれている。フードもご丁寧にかぶっている理由は、フードに耳がついているからだろう。被ればわかるのだが、耳の他にターコイズブルーの色をした目に後ろには、もふもふのしっぽがついてたりする。


「んーん、キツネ」


燐はおそらくフードについていた耳を引っ張り、次はパーカーの後ろについていたしっぽに気付いたようで、後ろでブラブラしてるしっぽを掴んで遊んでいるようだ。何故、確定的ではないかというと、あたしが燐の目の前に立っていて、燐は確かにあたしの後ろに手を伸ばしてしっぽを触っているらしく、パーカーの後ろがやや引っ張られているのがわかるが、目線がフードやパーカー全体を見ているから。そんな燐をあたしがまた見ているからである。


「こういうのって、フツーはネコとかじゃねェの?」
「まあ、ふつうならネコとかイヌだよね」
「ネコ好きだろ」


あたしが立ってるせいで、珍しく燐から見上げる形になる。割と至近距離にある燐の顔は、声だけ不思議そうに、でも表情はあまり深く興味がありそうなワケでもなく、ぼんやりとした感じだ。多分、しっぽに気を取られているとみた。


「ネコは好きだよ」
「じゃあ、なんでキツネ」


まあ、そうなりますよね。わかってた。聞かれるとは予想ついていたけど、いざ聞かれると、どうしようってなってしまう。口ごもって、どうしようかなと悩んでいれば、燐が不思議そうな目で、ン〜?と見てくる。


「…ぁ」
「ン…?」
「あま…ぎ…つね…的な?」


至近距離にいる時点で目を逸らすこともできず、しかし顔に熱が集まることを感じながら、せめてもの思いでパーカーの袖口で口元を隠しながら言葉を紡いだ。恥ずかしさもあり、歯切れも悪かったこともあってか、少しの間があった後に、しっぽを掴んでた燐の手がぴたりと止まる。


「…燐…?」
「…ァアッくっそ!」
「ひぁっ」

燐は、しっぽを掴んでたはずの手が気付けば口元に持っていってたあたしの手を掴んでいて、クイっと引き寄せられる。つんのめりそうになったところを、何とか持ち直して倒れ込まずに済んだ。…のだが、その勢いと共に燐の方から、あたしの方へと倒れ込んできて、そのまま胸のあたりに顔を埋めてギュッとされる。びっくりしすぎて、一瞬何が起きたのかさえ理解ができず、目の前に映る赤が燐の髪だと認識したら、自然と手が伸びてそっと撫でる。




「優希はさ」
「うん…?」
「俺っちのこと好きすぎるだろ」
「燐が燐だからね」
「ぜってェ、二度と離さねぇ」


腰に巻きつかれた腕に力がこもったのが伝わってくる。燐がこうやって甘えてくることは珍しい、酔ってるのかな、なんて思いながら、ギュッてし返してあげた。


「燐がイヤになるまでそばにいるからね」
「…俺からは絶対ない」
「うん」


よしよししながら、いつもと逆だなって、つい笑いが込み上げる。


(燐はみんなのお兄さんだからね)



「ねえ、燐の分もあるから着よう」
「ン〜」


そのあと、燐もパーカーを着てくれて、2人で一緒にすり寄りながら、写メをいっぱい撮った。一緒にフードまで被って、ほっぺたくっつけてたり、燐がほっぺにチューしてくれたりのツーショット撮ったり、自分で言うのもなんだが可愛い。ちなみに、次の日その写メと格好を見た燐は冷静になったようで、1人で悶々としてたとか。


後日よりこの天城とキツネをかけたパーカーは我が家の部屋着になった。

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