幼少のピアス



どのぐらい時間が経ったかわからない。わかるのは、自分のお腹のところに顔を埋めて、グスグスと動いていることだけ。気慣れた里の着物に顔を埋めているので、表情も見えなければ、今自分のお腹のあたりがどうなっているかもわからず。自分が何をすれば良いのか、何かをすれば良いのかもわからず、お腹のところにある頭をそっと撫でる。


「優希」


名前を呼んでみれば、グスグスと動いていたリズムが一瞬止まったのがわかる。肩より下まで流れている髪をボーッと眺めていれば、ふと顔が上げられる。お腹のあたりから離れたことにより、すごくあったわけではない圧迫感が無くなった。顔を上げた優希は目を真っ赤にして、グズグズに泣いてぐしゃぐしゃになった顔をしている。


「り”〜〜〜ん“〜〜〜っっっっ」
「ほら、もう大丈夫だから、優希は頑張ったな」
「う"〜〜〜っ」


顔を上げればまた大きな瞳からポロポロと涙が溢れそうになったので、袖口でなるべく痛くならないように拭いてやる。着ていた着物は少し着崩れしているが、今ここには俺と優希しかいないので、まあ直すのは後でいいだろう。普段からちょくちょく涙を浮かべることはあってもここまで、グズグズに泣いて動かなくなることは珍しい。珍しいのだが、理由は何かわかっているので、どうやったら落ち着かせられるかなと考えるだけ。


「優希、泣くなよ」
「だっで、いだがっ…う"〜〜〜」

ここに一彩がいなくてよかった。いや、むしろいたらここまで優希は泣いたりしないだろう。おそらく我慢するはず。いないからこそ、俺しかいないから素のまま我慢をしないで曝け出してるのだ。優希は結局一度は離れたというのに、気づけばまたギュッと抱きついてきてしまい、元通りになってしまった。


優希がこんなにも泣いている理由は、耳にある。長く下ろされた髪で隠れて見えないが、優希は先程耳飾りをするための穴をあけたのだ。元々耳に穴はあいていたし、俺たちみたいに耳飾りもしていたのだけれど、前にそこが膿んでしまってから何もつけない生活をしていたら、穴が塞がってしまったとのこと。そのため、再度大人たちによって穴を開けたようなのだが、それが驚きと痛みにより、今のようにグズグズに泣いてしまったのだ。元々は幼いころにやられるので、やられた記憶もないのだけれど、この年齢でやられるとはまた別問題なので、案の定緊張の糸がプツンと切れたようだ。


「優希は2回も頑張ったんだなら、えらいえらい」
「りん"ん"ん"っ…」


俺の着ている着物をぐしゃぐしゃに鷲掴みなしているが、痛みや気持ちも冷静になったんだろう、嗚咽も徐々に落ち着いて静かになってきた気がする。ぐすんと声を漏らして、ん"ン"ッ…とお腹のところに顔を擦り付けたまま、チラリと片目が覗く。

「…ぇらぃ…?」
「ん、えらい」
「りんっ、ぎゅっして」
「ほらっ」

えらいと言われて、気分を良くしたのか。改めて言ってやれば、まだ瞳はうるうるしているが涙が止まったであろう優希はそのままいつものごとく甘えてくる。両手を広げれば、着物を掴んでいた両手はニュッと伸びて首に腕を回してきた。それにより、さっきお腹のあたりにあった優希の顔がさっきよりも一気に近くなる。



「りん、」
「ン〜?」
「りん、すき…」
「俺も優希が好きだよ」


その言葉に優希は満足したのか、さっきまで泣いていたのは嘘のように、へにゃりと笑ってさっきとはまた違った表情を浮かべる。スリスリと首筋に擦り寄って来て、単純なやつだな…と心の中で呟いた。まあ、そんなところがまた裏表がなくって可愛いなと思えるんだけどな。













どうやら俺は寝ていたようで、懐かしい夢を見た。昔の優希とのやりとりだった。自然と出たあくびを噛み締めて、視線を動かせば右側に優希の存在を感じる。


「燐、起きた…?」
「ン〜、重かったっしょ」
「大丈夫だよ、むしろ燐が風邪ひかないか気になってたんだけど、体冷えてない…?」


優希の肩に頭を乗せてソファーに座ったまま寝ていたようで、動けばすぐに気づいた優希は見ていたテレビから視線を外し、こちらを見てくる。俺の手などに触れて、体が冷えてないから確認してくるが、寒いとかそういう感覚はねェから大丈夫っしょって呟く。風呂上がりってこともあり、ヘアバンドをしている優希は普段髪で隠れている耳が見えて、キラリと光るピアスによってさっきの夢を思い出させられる。


「燐…?」
「コレ、開けた時の夢見た」
「懐かしいね」
「…なぁ、もう一個開けてつったら?」


耳に触れれば、くすぐったそうに身を捩りながら、その手に擦り寄って気持ちよさそうに目を細める。その姿がまた可愛らしく、あぁ好きだなァと自覚させられる。


「ん〜燐がいいこいいこしてくれるなら、頑張れる」
「いくらでもしてやらァ」


あーやっぱかわいいわ、ちょっと恥ずかしく感じたのか頬を赤らめながら控えめに見上げて呟いた優希がかわいすぎて、とりあえずおでこにちゅーした。

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