変化と不変。3



里にいた時は、親がいて燐という存在がいた。里を出てからレオくんと出会い、Knightsのみんなが支えてくれた。常にあたしは誰かに守られて生きていたことを実感する。そんなあたしにも、一人でいる機会が増え、一人の仕事が増えてきた。それは喜ばしいことであり、同時に一人で踏ん張らなければならないことである。恵まれすぎていたあたしは、頑張らなければならない。ずっとそう思ってた。

自分で自分にそう言い聞かせて、気づけば我慢をしてきたらしい。

確信まではいかないけれど、今回この役をやって思ったのは、我慢ばかりしなくても良い、甘えないために我慢するというのも違うということ、もっと自分を出しても良いってことだった。



「我慢とかも必要だとは思いますけど、でも全部が全部我慢するのも違いますからね。俺の場合、我慢を例えしたとしても、決めたことは何が何でも手に入れようとしちゃうんで、今回の役は結構やりやすいんですよぉ」


練習中にジュンくんから言われた言葉。この言葉を聞いて、そういう方法もあるんだなってことを知った。正直、まだ考え方を全て変えられる訳じゃないけど、もうちょっと視野を広げてみようかな、って思えた。









舞台は無事に終わり、あたしは勇気を出して燐に連絡をする。燐と最後に顔を合わせた日から、燐からの連絡はもちろんないし、あたしからもなんて送れば良いか、なにを言えば良いかもわからず、練習に追われていたため何も連絡はしていない。なので、より不安ばかり過るが、考えても仕方ない。燐に会いたい、と連絡を送れば、わかった。とだけ返ってきたことにホッとした。

仕事を終えたであろう燐が、数日ぶりに家にやってきた。いつものように、ベットに腰掛けているのだが、正直空気が重い。ちなみにあたしは、ベットに座ってる燐の足元で足を崩して座っている。


「えっ、と、舞台ね、無事終わったんだ…。ただ役作り、すごく大変でね。燐と最後に会った時もね、ジュンくんに練習付き合ってもらってたの…」


今回の役をやって見つめ直せたこと。
あたしの役の彼女は意志が強い、だからこそ自分と彼の幸せのどっちも取る選択に出たということ。それが駆け落ちという展開だっただけ。あたしは、逆に相手の幸せばかり願って自分のことは、正直考えていなかった。


全ては燐のために。


燐に尽くすもの。


その考え方が当たり前だったから…。いざ、ことが起きた時、あたしは燐のことだけを考えて行動した。その結果、里を出ることにもなったし、後々に外でいろんなことを知れたのだが。




(あたしって燐のこと考えると、いろいろ上手く立ち回れてない気がする…)




呼び出しておいて、あの日のことを言い訳のように呟くしかなく、何で言えば良いのか上手く言葉がまとまらない。考えれば考えるほど、頭が真っ白になる。相変わらず燐はなんとも言えない表情だし、目線は合わないから、居心地が悪すぎる。


「舞台…観に行ったンだわ」
「…え…」
「役だって演技だってわかってるけど、さざみん相手にああいうの観てるのは正直面白くなかった」
「り…」
「優希があの日、役で悩んでてさざみんに恋愛したらつったのもわーってる。けど、優希は俺のっしょ」


気づけば、目の前に燐の顔がそこにあった。おでことおでこがピタッとくっついて、演技でジュンくんと至近距離のシーンはあったけど、それよりも近い。


「しかも、あの話。俺っちもあんな風に一緒に出てれば、また変わってたのかなって思ったら優希にツラい思いばっかさせなかったかもなァって思ったりもした」
「り、ん…」
「優希のことだから、まあ別のこと考えて勝手に悩んでそうだけどなァ。そンで、まじキャパが越えた時に、自分のことダメにするまでが優希の悪いところな。俺から、優希を手放す選択なんてねェから。これからは俺にちゃんと相談すること」


あたしたちは身長も体格も声だって変わった。中身だって、考え方だって、変わったように思えてたけど、自分がそう思い込んでるだけで、何も変わってないことだってあったんだな。正直、恋愛とかまだハッキリとしたわけではなけれど、今はこれで良いのかな、と思うことにした。
 

「あーまじ舞台も練習も役ってわかってたけどよォ、すっげぇムシャクシャしたわ」
「え…そんなに…?」
「ン〜まァな〜。優希がこうやって頑張ってくれたからチャラにすっけどよォ」 


燐はあたしを後ろから抱き抱えて、髪の毛に顔を埋めてウリウリしてくる。お腹に回された手に自分の手を乗せて、よしよししてげたら少しだけ力が加わった気がした。 


「燐」
「ン…」
「だいすきだよ」
「知ってる、」
「ねえ、」
「ン〜?」


「燐が嫌になるまで、そばにいさせてね」


燐の顔が見えないことをいいことに、伝えたい言葉を口にすれば埋めていた燐の顔が離れていくのがわかる。
気づけば燐の手が器用にあたしの顔を後ろに向かせてきて、燐と視線が絡み合う。燐の澄んだターコイズブルーの瞳は細められて微かに揺れてる気がした。


「優希が嫌がっても離さなねェよ」


そう言って燐の唇があたしの唇を塞いだ。異論は認めないとでも言うように。

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