変化と不変。2



早速、稽古の日々。
動きやすい服装で、台本を読みながらの練習を繰り返す。限られた舞台で巡る巡るように変わる立ち位置と動きを覚えながら台詞を頭に入れていく。ここまでで覚えることは問題ない、問題があるとすれば、
 

「ごめんね、ジュンくん」
「全然いいっすよぉ、俺もちょうど練習したかったんで」


あたしが上手く役に入り込めていないことだろう。毎日稽古はあるのだが、時間は限られており、自分一人では練習しにくいところもある。

顔合わせ以降、練習で否が応でも会う日々なので、自然と打ち解けて今ではジュンくんと呼ばせてもらってる。ジュンくんは見た目、取っ付きにくそうなのに、話してみたら割と低姿勢なところがある。でも演技となったら、かなり役に入り込んでいて、何故そんなに上手なのかと聞いたら、「まあ、使用人的なことは前々からやってるんで」なんて笑っていた。


「優希さんは、今悩んでるところ、どんな風に感じてるんですかねぇ?」
「うーん、ここのシーンなんだけど」


二人で一冊の台本を開き、覗き込む。台詞がにいろいろとマーカーやペンで書き込みもしてあり、やや見にくくなっているが仕方なし。ジュンくんは台本を読んで「あぁ、そこっすねぇ」なんて言いながら、何やらブツブツ呟く。

「とりあえず、やってみましょうか」
「うん、お願いします」



台詞はほぼ台本に叩き込まれているので、台本を適当に端に置いて、ジュンくんに向き合う。ジュンくんは、逃げるあたしの腕を思いっきり引っ張って、顔を合わせて至近距離からの位置で話し始めるところから。

グイッと引っ張られて、お互いの鼻なんてほぼぶつかりそうな距離、突然近づくから焦点が一瞬ブレるがそんなことを気にしている余裕はない。頬に手を添えられて互いに見つめ返す。スラスラとお互いに出てくる台詞。ジュンくんの一つ一つ織りなす表情変化は、すごいなって感心するものばかりだった。

…んだけど、

「まあ、確かに何か足りない感じがしますねぇ」
「うーんやっぱり…」


何度も練習を繰り返すが、満足いくようにいかない。ジュンくん自身も、もっと良くなる、何か違うと感じているようだ。これって、あれかスランプってやつかな…と思ってあたしはため息をつく。



「気のせいだったら、あれなんすけど」
「えっ、何か、気になることある…?!」
「いや、気になること、というか…まぁそうなるんですかねぇ」
 

息抜きも兼ねて稽古場を後にして、ジュンくんと一緒に飲み物を買いに行く。その行き道の中で、ジュンくんがふと何か考えながら口を開く。しかし、その様子は何やら歯切れが悪い。


「優希さんって、こういうジャンル苦手意識を無意識にしてません?」
「あー…」
「図星、っすねぇ、その様子だと」
「だって…わかんないんだもん…。こういう恋愛とか、今回の役だって、」
「まあ、苦手意識作ってもやるしかないですからねぇ。練習あるのみでしょ」



「やっぱそうだよね…、あーもういっそのことこういう恋がしてみたい…!」


だって、そうしたら、わかるかもしれないって思ったから。


ただそれだけで別に深い意味はなかった。
ジュンくんもジュンくんで、「俺としてみます…?」なんて冗談っぽく乗っかってきてくれたのもわかる。役作りに悩んで困って息詰まってしまって、けれどその言葉で少し気が楽になった。そんな時、耳に入ってきたのは、「は…?」というジュンくんではない声。びっくりして声がした方を見てみれば、呆然と立ち尽くす燐の姿。横で、「まじっすかぁ…」と苦虫を潰したような歯切れの悪いジュンくんの声がする。


「あっ…り、ん…」


久々に顔を見た燐と言えば、見る見るうちに表情は複雑に、眉間に皺を寄せていく。放ってる雰囲気も何やら不穏に感じる。何故かはわからないけれど、手を伸ばして声をかけようと思ったが、「来るんじゃねェ」とひどく低い、怒気の含んだ燐の声だった。結局その後、燐と顔を合わせることもできずに離れてしまい、あたしは更にモヤモヤすることになった。

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