変化と不変。



先日懐かしい夢を見た。レオくんとの昔の記憶。その夢を見た時に一緒に思い出したこと。あたしは故郷を出た人間、いわば追放された者。戻ることは許されない、それが里を出る時、交わされた最後の約束。



(それなのに、…)


燐に会えて、また受け入れてもらえて舞い上がっていた。忘れていた、今は昔じゃない。昔は今じゃない。全てが違う、同じように錯覚していて、ふと思い出すのは現実。

月日は経った。あたしは大人になり、燐もまた大人になった。そして故郷を出て、アイドルになった。所属だって、立ち位置だっていろいろ違う。ずっと一緒にいたはずなのに、あの日を境に違う時間を過ごしてきた。身長も体格も声だって変わった。まあ、変わったのは見た目だけじゃない。中身だって、考え方だって、

(こんなんじゃ…だめだよなあ)


ふとした時、いろんなことが不安になるのだ。














遡ること数日前。

「今回、主役をやらせていただきます、水城優希です。ダブル主演ということで、至らない点もあるかと思いますが、精一杯努めさせてもらいます、よろしくお願いします。」

とある舞台の出演が決まったこともあり、顔合わせに参加していた。それぞれ役名と自分の名前、簡単な挨拶をしていく流れで、あたしは自分の順番を終えると、ほっと一息をつきながらパイプ椅子に座る。

手元には出演者やあらすじなどが書かれた紙と台本。ちらほらと見知った名前を横目にあらすじを読んでなんとも言えない気持ちになった。



「よろしくお願いしますね、水城さん」
「あ、うん、よろしくお願いします、漣くん」

もう一人の主役をやるのはコズプロの漣ジュンくん。顔合わせが終わり、身支度を整えていれば漣くんの方から挨拶に来てくれた。

「あたし、初めての主演だから、いろいろ足引っ張っちゃうかも知れないですけど」
「あ、水城さん」
「んー?」
「おれの方が年下なんで、敬語とかなしていいっすよぉ」
「ありがと、漣くんも敬語とかじゃなくていいよ」
「えっ、でも俺の方が下だし」
「いーのいーの、せっかくこれから一緒にやるんだし、ね」






そんな挨拶の後、いつものように家に来ていた燐にあった出来事を伝えていく。



「舞台の稽古が立て込むから」
「ふうん、じゃァ、しばらく会いにくいってことか」
「ごめんね、燐」
「仕方ないっしょ。仕事だしな。あんま無理すンなよ」


これが最近の中で一番最後に燐と出会った時のやりとりだった。ベットの上に転がり、台本を開く。




今回の舞台は、身分違いの恋愛についてのものだった。とある令嬢とその使用人は幼い頃より一緒に育ってきた。その中で令嬢は婚約の話が出る。令嬢は一緒に育ってきた使用人のことが好きだったからだ、そんな時に使用人とのお互いの気持ちを知るが、追い討ちをかけるように使用人の思いが周りにバレてしまい、面白く思わなかった婚約相手によって居場所を無くし、駆け落ちする話だった。よくあるベターなものと言えばそうなる。



(全てを捨てて相手と一緒にいるのは、あたしと違うところだな…)



正直言って、恋愛についての内容は得意ではない。恋愛というものがどんなものか、しっかりと自分が理解していないから。燐との関係を恋愛と繋げるべきか?昔から一緒にいて当たり前だったから、それが答えなのか確信がない。そう、当たり前すぎてわからない。あたしは全て、燐のためにあるだけだった。だから、どのように今回の舞台は演じて、表現すべきか、これが一番の課題になりそうだな、と思った。


(しかも、相手にも同じように全てを捨てでもいるって…うんんんん)

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