つきのもの。2



体が揺れてる気がする。耳に入る少し乱れた息遣い。あたたかい何かに包まれてる気がするけれど、これは夢なのかなんなのか。わかるのは、そのあたたかさが安心するということ。ツラいのに、居心地が良くてあたし思わずそれに頬を寄せていれば頭上から聞こえてきたのは、「兄さんっ!!!」と呼ぶひーくんの声だった。

何を話しているのか、聞き取ることまでできなくて、正直そっと寝かせてほしいなんて思っても、それ以上に何もしたくない現状は変わらず。すると、前髪がそっとかき上げられた感触がした。


「優希、薬は…?」
「…飲んだけど、効かない…」
「仕方ねェな…、おい、ニキ。ちょっと近くの自販機であったかい飲み物買ってきてくれ」


無意識に返事をしたが、違和感を感じる。再び目を開けてみれば、さっきまで目の前にあったひーくんの顔は燐に変わっていた。燐は、額に汗が滲んでいてユニット用の練習着を着ており、後ろの壁や鏡を見る限り、ここは稽古場だろうと気付く。あたしが擦り寄っていたのは、ひーくんだったようで、ここで「…ぁれ…」と疑問が頭を過ぎる。視線だけ、ぐるりと回して見たら、まずあたしはひーくんに横抱きをされて抱えられていた。二つ目は燐の後ろでHiMERUくんやこはくんの頭がチラリと見えるため、ここでCrazy:Bが練習中だったことがわかる。


「ほら、優希とりあえずコレで腹あっためろ」


燐は自分が来ていたパーカーを脱いで、あたしのお腹にかけて、両手で抱えるように持たせてきた。小さな声で「兄さん…姉さん…」って呟くひーくんの声があたしの耳に入ってくる。


「だいじょーぶだよ…ひーくん」


ひーくんからは訳もわからず、相当混乱しているのが伝わってくる。そんなに心配することもないし、こればっかりは仕方ないことだから、ひーくんに大丈夫と伝えるが、あまりにも説得力がないようで、抱き抱えられている腕に力がこもるのがわかった。

燐の背後から、「燐音く〜ん、買ってきたっすよ〜!」ってニキくんの声もして、燐の視線が一度あたしから逸らされる。それも少しの間のことで、すぐに燐はあたしに視線を戻せば、あたしに渡したパーカーの中、あたしのお腹があるところに手を突っ込んでくる。じんわりとお腹に温もりを感じて、それがすぐにあたたかいペットボトルの飲み物だとわかった。あたしは、それをそのまま湯たんぽがわりにお腹を温める。


「おら、優希」


安定していた体が揺れて、寄り添っていた体温と温もりの位置が変わる。ふわりと感じたのは、ひーくんとまた別の安心する香り。見なくてもこれが燐ってのはすぐにわかった。どうやら、抱き抱える人はひーくんから燐に変わったようで。あたしは、燐の着ていたシャツをぐしゃりと掴んで胸元に顔を埋める。ドロっとしたものが出る感覚がして、気持ち悪さから、口から漏れる唸るような声。それがまたひーくんの不安を煽ってしまったようだ。


「兄さんっ、姉さんは…」
「安心しろ、寝てれば良くなるし、寝かせるしかねェわ」


燐は言わずとも、あたしの様子でいろいろ察してくれたようで慣れた対応をしてくれる。正直、他の人たちにこんな弱って、抱き抱えられてる姿見せるのは、普段だったら情けなさと恥ずかしさも感じるのだろうけど、そんな余裕もなく、今はひたすらに燐の対応に申し訳なさとありがたみを感じるだけ。


「っつーことでェ、俺っちは優希連れて帰っから、わりィな。離脱するわ」


燐はひーくんに「ちょっと手伝え」って声もする。ここであたしは完全に安心しきって意識を飛ばしてしまった。

[ ]









×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -