寒い夜道



冬の日の出来事



(うううっ、さむいっ…)



外の冷たい風が肌に当たり、思わず身震いしてしまう。なるべく肌を出さないように、もこもこのスヌードに顔を埋める。



(…燐の匂いがする…)



今、あたしがしているスヌードは自分のものではない。先日、燐が家に来た時に置いていったものだ。何故、忘れたのか、寒くなかったのかな、なーんて思ったが、割とよく家に来る彼のことだから、そのうち取りに来るだろうと思って置いたままだった。
日も暮れて正直、あまり外には出たくない時間。しかし、日用品でシャンプーなどが買わなければもうなくなることに気づき、渋々買い物に出てきた。その際に、たまたま目についた燐のスヌードをしてきてしまったという。

すごくもこもこしているスヌードは肌触りがとても良く、つけていれば触れたところがとても心地よい。それに加えて、燐の微か匂いがするから、寒い外でも少しだけ気持ちがホクホクした。


はーっと息を吐けば、街頭に照らされて目の前に見える白い息。そんなに大きくない買い物袋を片手に持っているため、出ている手が冷たくなるのがわかるため、ガサガサとビニールを持ったまま両手を自分の吐息で暖める。


「手袋して来れば良かったかなあ…」


ボソリとつぶやいた後悔、それでなくなるなら後悔先に立たずなんて言葉も生まれない。
さっさと帰ろう、と決めて心を無にして歩こうとしたときだった。突然スヌードに埋めていた頬に冷たい何かが触れて、思わず「ひっ…」とフリーズした。あまりにも突然のことすぎて、訳が分からずギギギっと音が鳴りそうな動きで振り向いてみれば、「よっ」て燐が立っていた。ちなみにあたしの首に触れていたのは燐の冷たく冷えた手である。


「びっくりしたし、さむいし、つめたい」
「だろうなァって思ったわ。あったかそうなのつけてたから、ついな」


ジトっとした目線を送っても、何も気にしてないようでニシシっと笑う燐はそのままあたしが持っていた買い物袋を自然の流れで取ってしまい、そのまま手首にぶら下げてポケットに持ってる方の手を突っ込んだ。そしてもう一つの手は、あたしの手を取ってそのまま大きな手のひらで包む。


「…燐の手、つめたい…」
「仕方ねェだろ〜、俺っちも寒い寒い外にいたんだからよォ」


冷たい風が正面から吹くものだから、思わず燐の腕に擦り寄って、縮こまる。


「優希はあったかそうなのしてるじゃんか」
「これ、燐が忘れてったものだよ…?」 


擦り寄ったまま、燐を見上げてみれば、燐は「わざと置いていったからなァ」とまた笑った。そういえば、燐はスヌードをあたしのところに置いていったというのに、今首には黒いチェックのマフラーをしている。燐がそれをしているところを見たことがないはずなのに、何故か見覚えがあるそれ。そんなことを思っていたら、どうやら燐にはお見通しなようで、買い物袋を持っている側の手でマフラーの端を持ち上げて、可愛らしく首を傾けながら自分の頬に擦り付ける。


「これ、優希の」



見覚えがあるそれは、どうやらあたしのだったらしい。と、いうのもその黒いチェックのマフラー自体をつけていた記憶がないからだ。しかし、あまりにも既視感があるため、繋いでないな方の手で、マフラーをペラっとめくって納得した。


「どこにいったのかと思ってたやつ〜!」
「優希、ぜんっぜん気づかねェのな」


マフラーの裏面は赤いチェックの柄、そう、普段は赤チェックを表にして使っていたリバーシブルのマフラーだった。他のマフラーに比べて厚めということもあり、本当に寒い日にしかつけないので、使用頻度が少ないからいつもあるところになくても、どこか別のところに仕舞い込んでいたのかと思っていた。


「なんで、燐が持ってるの…」
「ン〜?」


もう、いろいろ訳が分からず、燐に聞いてみるも、燐はニッと笑みを浮かべる。


「優希の持ってたら、寒くても仕事頑張れるだろうなァって思ってよ」


ポケットに入れていたであろう手があたしの頬に触れる。


「り、ん…」
「けど、まぁ、やっぱホンモノが一番だよな」


気づけば燐の顔が目の前にあって、そっと触何かが唇に触れた。それが燐の唇と気付くのは、燐のものが離れたと思ったら、おでことおでこがコツンとぶつかったとき。


「帰ろ…な」


ターコイズブルーの瞳を細めて、優しく囁かれる声。触れたところから熱を帯びて、あたしは燐の腕に抱きついた。


「うんっ、」


燐の体温を感じながら、微かに香る燐の匂いに包まれて、寒い日だというのにあたしの中ではポカポカしていた。

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