燐音と捕食者と非捕食者



※短編の椎名ニキと捕食者と非捕食者の話が含まれます
※ケーキバースについて触れてます



ケーキ、フォーク、この言葉を聞いて人は何を連想するだろうか。

甘味として食べる甘い甘い食べ物。
生クリームや色とりどりのフルーツが乗っていたり鮮やかで味も美味しいのが魅力的な。

一方フォークは食べる時に使う道具。先端が尖っていて、箸の代わりに食事でもデザートなどを食す際に刺しても掬っても使えるもの。

だけど、ここで話すケーキとフォークは違う意味を指す。


ケーキとは先天的に生まれる美味しい人間。

フォークとはケーキを美味しいと感じてしまう人間のこと。



「ねえ、燐。もしもの話なんだけど、」
「どうした?」


ソファー腰掛けてるあたしたち、燐はポチポチとスマホをいじっていて、あたしはその横で本に目を通していた。互いにそれぞれの時間を過ごしていた時間、別にケンカをしてたわけでもなく、これがあたしたちの日常。


「あたしがもしケーキだったらどうする?」


あたしは手にしていた本を持ったまま燐に尋ねる。
燐の体がモゾっと動いたけど、返事はない。


「ケーキってデザートの?」
「ううん、」
「ケーキねぇ」


燐の目があたしを捉え、燐の全体重があたしにのしかかる。
猫のように擦り寄る頬。肌を通じて熱が伝わってくる。


「優希がケーキだったら、」
「うん」
「俺がフォークだった場合、ってこと?」


擦り合わせていた頬同士、気づけば燐が唇を這うように滑らせていて、はむっと甘噛みを一回。


「燐は食べちゃう?」


甘噛みなんてかわいいものじゃない、本当の意味での食すかどうかという意味。

燐は無表情のまま、ジッとあたしを食い入るような視線を向けてくる。


「食べるってさ、」
「うん」
「髪も肉も血も…ってことだろ」
「そう」


燐の返事はなんとなくわかっている。わかっていてこんな質問をするあたしはなんて意地の悪いことをしているんだろうって思う。けど、気になったんだから仕方ない。


「燐?」


無言のまま、あたしに持たれかかっていた体をゴロンと膝に頭を乗せて寝転んだ。
相変わらず、何も言葉を発さない燐の顔を上から覗き込んでそっと髪を撫でてみる。


「食ったら、優希がいなくなるだろ。食えるかよ」
「頭でわかってても、欲の方が勝つかもしれないよ?」
「そうだとしても、」


燐は寝にくいだろうに。ソファーの上で大きな体を縮こませ、あたしの方に顔を向けて抱きついた。


「俺は優希がいない方があり得ない」


ほらね、やっぱりそうだ。燐から覇気のない声がする。
あたしはこの言葉を聞いて、嬉しさを噛み締める。なんて意地の悪いことなんだろうとも思うけれど、聞いてみたかったんだから仕方ない。


「ニキくんがさ、出てたドラマの。ニキくんがケーキの方ってのが斬新だったよね」
「…やっぱりそれに感化されての質問かよ」


あたしが突然した質問の意図は、ケーキバースを題材にしたドラマの内容からだった。ニキくんが主演として出ているもので、食べることが大好き料理人の役、まんまニキくんだけど、そんな彼はケーキバースの世界で言うケーキの役柄だった。
そしてフォークとなる女性と出会い…って流れだったんだけど。


「この世じゃ絶対あり得ないってわかってるけど、もしもの世界って考えてみたくなるじゃない」
「それにしたって質問の意図が悪すぎんだろ」
「うん、ごめんね」


ちょっとヘソを曲げてしまったかも。燐の声はやっぱり面白くなさそうで、こういうちょっとムキになるところも想定内だったりする。


「でも、食べられるなら燐が良いなぁって思っただけ」


そうしたらずっと一緒にいられるなって思った、だけ。
でもやっぱり生きて隣にいたいから、食べられないこの世界に生まれて良かったなと思う。

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