私の不安と本音



※スタライ2日目ネタバレあり


燐の目を盗んでこっそりと買い物をした。自分のスマホからネットで購入だから、届く瞬間だけなんとかすれば問題なかった。実際に宅急便も燐のいない時に配達されて、うまーくことが進んでいたはずだった。なのに、なぜかバレてしまった。クローゼットにしまっていた箱を見つけられて、中身を見て驚いた顔でこちらを見てくる燐の顔は今思い出してもクスリと笑える。
ES所属のアイドルグループが今年は事務所合同ライブを行うと発表されたのは去年のことだ。二部に分かれていて、春夏はSTARMEAKER PRODUCTIONとNEW DIMENSIONによるSynchronic Spheres、そして秋冬にはCOSMIC PRODUCTIONとRHYTHM LINKによるAllied Worlds。春夏に行ったSynchronic Spheresは大成功に終わったのは記憶にまだ新しい。Synchronic Spheresが終わる頃、入れ違いで打ち合わせから練習詰になったAllied Worlds出演者たち。つまり、燐たちとのスケジュールは入れ違いで一緒になることが減った。だからこそ、チャンスだと思ったのに、限られた時間の中で燐にしっかりバレてしまうなんて、あたしはつくづく隠し事ができないんだなと実感した。
チケットはちゃんと正規ルートで入手済み。司くん、ナルちゃん、凛月くんと力を合わせて手に入れたものだ。司くんはこはくん、ナルちゃんはみかちゃん、凛月くんはみかりんもいるしみんなが行くなら〜って言ってたけど、兄である零くんがいるから行くことを決めたのだろう。

Allied Worlds当日、みんなでちゃんと変装して現地に集合。座席について、暗転した会場内にあたしはすごく興奮してしまう。オープニングがスタートしてライブが開始した。ドキドキとワクワクが止まらなかった。2wink、Eden、UNDEAD、Valkyrie、紅月、Crazy:B、Ra*bitsの順番で、それぞれのユニットの特色がすごく出ていてどのユニットも素晴らしい。ユニットが一巡してMCのターンらしい。そこで出てきたのは、宗くんと鬼龍くん、そしてまさかの燐だった。ちょっと意外な面々に驚きつつも、燐のMCが聞けるのは当たりだったなと心躍らせてステージに立つ燐を食い入るように見つめる。


「燐音くんが大好きだ!ってやつはどれくらいいる〜?!」


その言葉にあたしはもちろん全力でキンブレを振る。あたしが見える限りでも振ってる人たちがたくさんいて、その光り輝く光景を燐は嬉しそうに眺めていた。幸せを噛み締め愛おしそうなその表情にあたしも嬉しくなる、

と同時に、心の中のどこかで何かがざわめいたのを気づかないふりをした。


後半はCrazy:B、紅月、Valkyrie、 2wink、日和くん、なずなくん、薫くん、晃牙くんたちによるMCを挟み、Eden、Ra*bits、UNDEAD、そしてアンコールを経て、ライブは無事に終了。みんなでライブの余韻に浸りながら、みんなでいっぱい話をしてあたしだけ一足先に離脱。出演者組には差し入れを買ってあったけど、それはみんなに託したのだ。
家に戻ってきて、ライブのことを思い出す。燐の楽しそうな表情、ワクワクとした気持ちが溢れていてすごく眩しかった。嬉しそうなアイドルとしての姿はあたしも望んでいたものなのに、なぜか消えない心のモヤモヤが嫌になる。

このライブ開催中、燐は家に戻ってこない。出演者は一日二公演というスケジュールのため、現地近くのホテルで寝泊まりをしている。つまり、この気持ちで燐に会わずに済むことをホッとしながらも一人で過ごす時間はこんなにも苦しいものか、と自問自答を繰り返した。

時間はあっという間だ。

一晩過ぎれば燐が戻ってくる時間まで二四時間切ってしまったと思ったし、気づいた時には登っていた陽も落ちている。夜公演が終わって、打ち上げにも行ってくる予定だから遅いはず。夕飯は今日までいらないと言われていたから、それは間違いない。あたしは一人適当にご飯を済ませて、お風呂に入って一人晩酌をする。と言っても完全に今の感情を処理するためだけの呑み方をしていて本当はよろしくないんだけれど。あぁ、ダメだなって改めて思ってしまい、あたしは早々に布団の中へと潜り込んだ。
暗い部屋の中、布団をかぶって目を瞑るけど、モヤモヤした気持ちのせいで寝付けないし眠くない。さっさと意識を飛ばしたいのに、焦れば焦るほど睡魔は遠のき、目が冴えていくのがわかった。


ガチャリと音がして、廊下で足音がする。あぁ、帰ってきた。あたしは息を潜めて寝たふりをする。廊下を歩く足音は、洗面所の方に行きリビングへと向かったみたい。それからパタパタと足音が近づいてきて寝室の扉を開く音が耳に入ってきた。


「優希、ただいま」


ベッドの一部が沈んだ。燐が腰掛けたようで、声も近い。なんなら、布団から少しだけはみ出たあたしの頭をそっと撫でてくる。その声はやっぱりどこかこの三日間でのライブの余韻を残していて、あたしの心もモヤつかせる。


「王様くんたちと一緒に来てたって言ったのに、楽屋来なかったんだな。みんな来てたのによ」


燐は寝ているであろうあたしにお構いなしで話を続ける。


「優希にはどう見えたんだろうな。感想、聞きたかったわ」


暗闇の中でぼやく独り言が宙を舞う。それと同時に布団越しから伝わる重み。ぎゅっと包まれる感覚にあたしはりんに抱きしめられてるんだと気づくのはすぐだった。


「…かっこよかった、けど」
「うん」
「り、んが遠くに感じて、やだった、って思う自分がいちばんいやで、」
「そっか」
「っりん、ッ」


アルコールが抜け切らない中、気づけば抱えていたモヤモヤを口に出していて、寝ていると思わせていたはずなのに燐は静かに聞いてくれていて、それさえも疑問に思う余裕がないあたしはずっと抱えていたものを吐き出した。

そう、ライブで歌う燐はかっこよかった。誰よりもキラキラしていて、楽しそうで幸せそうだった。でも、それと同時に嫌だった。故郷にいた時はみんなの視線を集めることがあっても、手に届く距離にいてくれた。燐のそばにいられるという確信があった。だけど今は?あのライブを見て何を思った?会場の広さ、燐の知名度、人気、全てにおいて故郷と段違い。距離を自覚した、故郷のようにここは狭くない。広い世界の中にいる、その中でもっと大きくなるだろう、と実感してしまったら、怖くて、寂しくなって、


「バカだな…、アイドルであっても、ステージを降りたら俺はただの天城燐音、その横にいるのはいつだって優希一人だってのに」


燐の胸の中にしがみつく、あたしをあやすように優しく諭す燐の声。ずっと抱えていたモヤモヤがその声と言葉によって溶けていくから不思議だ。



結局その後、数日ぶりに燐と一緒に眠りについた。たった数日でも一人で寝ていたベッドは燐がいるだけですごく安心できてぐっすり眠れたから、どれだけ自分の精神状態がよくなかったのかを翌朝気付かされた。
ちなみにあたしが何かしらの気持ちを抱えていたことは、ナルちゃんたちに聞いていたらしい。ってことは、ナルちゃんたちにもバレていたこと、心配かけていたことを申し訳なく思いつつ、ちょっとだけ感謝。じゃなきゃ、多分素直にこうやって吐き出せなかっただろうし、今思い出しても恥ずかしさもあるけれど、吐き出してスッキリできたことは間違いないので、よかったと思うことにしよう。

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