みんなで年越し



毎年ES主催で開催されていたカウントダウンコンサート。それが今年度は、世間を騒がすほどの流行病によって開催はされないと発表があった。それから数ヶ月、気付けば年の瀬。クリスマスで彩られていた街並みもクリスマスが過ぎた途端にお正月ムード。この切り替えの速さには毎回驚きと関心しかない、そう今年もまた1年が変わろうとしていた。


「年末のスケジュールってどんな感じ?」
「あたしもう大晦日とかはオフだよ」


年末に向けた収録ばっかりだった。師走の言葉の通り、ばたついた日々を過ごし気付けば怒涛の中クリスマスを終えていて、今年も片手で指折り数える程度の日数。疲れた体を湯船で癒やし、着なれたパジャマを袖に通して、お風呂上がりに一杯、と思ってお茶を手にかけた時だった。おんなじように今日の疲れからかテレビを見てくつろいでいた燐に尋ねられたのは今後の予定。今年はもうライブもなければ、年末年始のことは収録、撮影で無事終えているため急ぎの仕事ももうないはず。予定表を見るまでもないため、そのまま記憶にある予定を伝えれば燐は「そっか」と短く呟くだけ。なんかあったっけ、と思い返して見るも心当たりがないあたしは飲み物を片手に燐の座るソファーに腰掛けた。


「なんかあった?」


隣に座るあたしにもたれかかる燐。擦り寄ってくる髪が顔を掠めてくすぐったい。


「年末、何したい?」
「年末…、うーんなんだろう」


燐が考えていたのは年末の過ごし方だったらしい。そうか、例年あたしたちはES主催のイベントに出ていたために、必然的に年越しの仕方は決まっていた。だけど、今年はそれがないため一から自分達でどうするかを考えなければならない。普段考えなくても決まっていた年とは違うため、考えるということすらしていなかったことに気付かされてあたしは考えを巡らせてみるが、そんなすぐにポンと出てくるものでもなく。燐と一緒に過ごせるならそれで良い、という程度しか浮かばない。


「燐は、どうしたいとかあるの?」
「それなんだよな」
「ひーくんたちとか、ニキくんたちとか。まあ、みんなの都合もあるだろうけど」
「そうだな、」


燐のことだから、きっとみんなで過ごす時間を大切にしたいだろうから、








大晦日当日、テーブルに並べられたピザ、唐揚げ、ポテト、サラダなどのジャンクフードたち。それと一緒に用意した飲み物もビール、ハイボールなどのアルコールからコーラ、ジュースなど例えば泉くんが見たら発狂しそうだ。


「いっぱいの料理、美味しかったよ!」
「なっはは〜!それはよかった!さーて、ご飯食べ終えたら今年最後の一仕事っすからね…!」


それも時間が経てば嘘みたいに空の皿が広がっていて、わかってはいたけれど、すごいなって思わずにはいられない。たくさんの料理を食べられてご満悦のひーくんにニキくん。多すぎる料理も育ち盛りやたくさん食べることを考えたら準備してよかったって思える。


「その前に片付けをしましょうか」
「ワシも手伝うわ」
「ありがとう、流しに持っていってくれたら助かるかな」


一緒にいたHiMERUくんとこはくんは率先して手伝いをするために動いてくれた。結局、大晦日は燐と相談してCrazy:Bのみんなやひーくんを誘って過ごすことになった。料理は悩んだけれど、翌日におせちがあるから、大晦日はジャンクにしようってことでこのラインナップ。日付は年を越すまであと数時間。あらかたごみなどを分けて片付けてしまえば、やらなきゃいけないことは一区切り。


「さーてと!次次っ!」
「ほんま、食べ物絡むと行動的やなぁ」
「これは年を越しても変わらない椎名らしい部分です」


そう、あたしが色々やる内容が一区切りでここからはニキくんたちの番。


「美味しいお餅をつくっすよ〜!」
「おーっ!」


なんでこんなことになったのか、今でもわからない。何処から借りてきたのか、知る由もないけれど、ニキくんとひーくんはせっせと準備を餅つきの開始する。本来餅つきは12月28日が最適らしく、大晦日は一夜飾りとなってしまうため行わないように、とのことらしい。だけど、「餅つきながら年越して新年食べたらそんなの関係ないっすよね」「餅って昔からハレの日の食べ物って言うんで!」とニキくんの一言により決行となった次第だ。まぁ、ひーくんも楽しそうだし、なんだかんだHiMERUくんもこはくんも楽しそうなので良いのかな。


「燐」
「ん、色々ありがとな」
「ううん、楽しかったから」
「そっか」


チビチビとマイペースにお酒を嗜む燐の横に腰掛けた。顔色は変わらずだけど、口数か少ないから大丈夫かなって顔を覗き込めば、トロンとした瞳と目が合う。


「俺、スッゲー幸せだなって思った」
「りん」
「こんな時間、当たり前じゃねーのにさ。贅沢だなって」
「燐が燐だから、こうやってみんないてくれるんだよ」
「優希」
「あたしもみんなも、ね」


ギュッと燐の手を握る。そう、当たり前じゃない日常。だけど、こうやって今日も変わらず仲間と過ごせたこと、一緒に一年を終えられることはみんなのおかげであり、燐がいたからだと知っていてほしい。


「あ、年越しましたね」
「ほんまや」
「明けましておめでとうだね!」
「よいしょっ!」


年越しらしくない餅つきの光景。手を止めずに餅をつきながら新年の挨拶をするひーくんもおかしいし、新年なんて関係なく目の前のお餅を返すことに必死なニキくんに笑みが溢れる。


「明けましておめでとう、燐」
「今年もよろしくな」
「喜んで」


スマホを見れば確かに日付が変わっていて、新年を迎えていた。


今年もたくさんの笑顔で溢れますように。

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