俺の不安と真実



※2022年の現地イベントネタ
※燐音視点


最近、優希が妙にソワソワしている。いつもと変わらないといえば変わらないのかもしれないが、何処となく浮き足立っていた。スマホを見て表情を緩ませたり、と普段見ないぐらいあからさまな仕草を何度も見かけてしまったらこっちだって神経質にもなる。


「優希」
「んー?」


今だって、声をかけてみても上の空のような返事に正直モヤっとする。いや、優希だって何かしていれば、そっちに意識が集中してしまって、返事が適当になることだってあるけれど、これが最近気になっていたスマホを見ている状態に加えて、緩んだ表情を見てしまってはモヤっとするだろう。


「なーにしてんだよ」
「ううん、ちょっとネット見てただけだから」


優希のいじっていたスマホを覗き込もうとしたら、あまりにもタイミングよくホーム画面に切り替えられてしまったし、優希の方からこんな感じで言われてこの会話は終了。結局今日だって優希が何にそんな表情をしているのかもわからないままだ。俺がそばにいてくっついたって嫌がる素振りはしない、寝る時だって一緒に寝てるし、それなのに優希にそんな顔をさせるのは何かがわからないのが一番面白くなかった。






◆◆◆






仕事は案外早く終わった。だから、真っ直ぐ家に帰る。久々に優希とゆっくり過ごせると思って、早く帰りたかった俺は連絡も入れずに帰ることを優先してしまう。だから、なんも考えず玄関の扉を開けて、靴を脱ぎ、リビングへ向かったけど、優希の姿はない。部屋の電気はつけっぱなし、ってことはこの家のどこかにいるはず。そう思っていたら、寝室の方で物音がする。俺はなんとなく音につられて、足先を寝室の方へと切り替えた。


「ただいまー、」
「あ。おかえりなさい」


優希はいた。寝室の中、クローゼットの目の前に立っていて、手元はクローゼットのノブにある。今そこを開けていて閉めた後か、もしくはこれから開けようとしていたか。自然体を装っているけれど、なんとなく動きがぎこちない。微々たるもので、パッと見わからないけれど、クローゼットから視線をずらそうとするかのようにこちらに体の向きを変えて動く優希に気付かない訳がない。


「ちょっと、燐っ」


ここ最近ずっと行動が気になっていたから尚更だろう。隙を見て、優希の何かがあるであろうクローゼットに手をかける。優希が咄嗟に静止に入ったけど、俺は聞こえぬふり。ごちゃごちゃ考えるより見た方が早い、百聞は一見にしかず、と言うように俺はそこを開けて見て中を覗いて見たら、見慣れない小さいとは言い難い箱があり、開き掛けの封を開けて見て俺は言葉に詰まった。



「…優希、これ」


中身を取り出して、思わず優希に声をかけるが反応はない。視線をずらしてみれば、両手で顔を覆っているではないか。


「どうしたんだよ」
「…買いました」
「自分で?」
「…うん」
「聞いてねぇんだけど」


別に責めたいわけではない、純粋に驚きの方がでかくて、「なんで言わなかった?」と聞けば指の隙間から覗く優希の瞳。ゆらゆらと恥ずかしそうに揺れている。


「だって…言ったら、燐が準備しそうかな、って思って」
「だから言わなかったって?」
「…自分で貢ぎたかったんだもん」


絶句。というよりはため息しか出ない。ちなみにこのため息は呆れとかではない。優希の気持ちが嬉しくて可愛くてたまんないって意味のため息だ。それもそうだろう。優希が最近ソワソワしてた理由もさっきまで慌てた理由も、クローゼットに隠してたものを見て全部はっきりした。俺の手の中にあるのは、キンブレのペンライトチューブ。しかも印字されてるのはめちゃくちゃ見慣れた俺のもの。なんなら、箱に入っていた他のものも俺のサインが入ったリングライトやCrazy:Bのタオルだったり、これを家で見るとは思わなかったから驚きしかない。


「チケットも持ってるの」
「は?!」


いやいやいや、こんなの驚くだろ?優希が言ったチケットってあれだろ?この時期にこのグッズがあってチケットと言われたら、優希が指すのは俺が参加するであろうコズプロが出る大型ライブのことのはず。


「司くんとナルちゃんと凛月くんで行こうねって約束してて」


あーなるほどな。一緒に出るのはコズプロ所属アイドルと合同で行うリズリンの奴ら。つまり、メンツ的にもそういうことだろう。こはくちゃんもいるし、みーたんもいるし、リズリンには兄貴がいるもんな。優希も優希で仕事があると思ったし、優希からもなーんも言われなかったから言わなかったけど、これは予想外だわ。


「来てくれんの?」
「…行っていいの?」
「当たり前じゃん」
「燐、声かけてくれないからダメかと思ってた」


ちょっとだけシュンとした優希が可愛かった。そんなこと言わねぇけど、今だって緩みそうな頬を必死に堪えてるってわかってるか?優希のおでこと自分のおでこをコツンと合わせる。


「ンなわけ、」


ファンに会えると言う意味でも楽しみだったライブだけど、これは俄然やる気が出るってやつじゃん?だから、俺が否定する訳がないだろう、その言葉を込めて俺は優希にキスをした。

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