カフェシナモンと女の子



※モブ視点

誘われてやってきたのはカフェシナモン。行こう行こうと思ってもなかなかタイミング合わず入ったことのないお店だ。あたしはメニューを開いてなにを注文しようか迷っていたら、ふと視線を感じてパッと見てみれば、綺麗な赤い髪を二つ結びにした女の子がこちらを見て立っていた。


「どうしたのかな」


じっとこっちを見ているだけで、微動だにしない。試しに声を掛けてみたのだけれど、タタタッと駆け出してしまった。


「あ…」
「どうしたの?」
「今、ここに小さな女の子がいたんだけど」


同僚はあたしの言葉にキョロキョロと辺りを見渡すけど、小さな女の子はすでに物陰に隠れてしまった後。つまり姿は見えない訳で、彼女はどんだけメニューに没頭していたんだろうかと突っ込みたくなった。

しばらくしてお互いに注文するものを決めたため、「すいませーん」と店員さんに声をかける。「はーい」とすぐに反応があって、メニューを再度睨めっこしていれば「ご注文どうぞ」って店員さんがやってきてオーダーするために顔を上げて見てギョッとした。


「このデミグラスソースの」


同僚には見えていないのか?やってきた店員さんの足にガッチリしがみついているこの赤髪の女の子の姿が。さっきあたしが見かけた女の子に間違いなくて、女の子は店員さんの足にしがみついているだけでなく、こっちをジッと凝視しいている。さっき見た時のような表情ではなく、ムスッとしていて機嫌も悪そう。それなのに店員さんは気にもせずオーダーを受けているし、同僚も一切何も言わないから、逆にあたしがおかしいのか???見えてないもの見えてるのか?と思えてきたぐらいだ。


「ほら、何頼むの?」
「え、あ、えっと」


結局あたしがオーダーを終えるまで、その小さな女の子は店員さんの足にギュッとしがみついたまま、ムスッとした表情も崩さずそこにいた。オーダーをし終えたら、店員さんがその場を立ち去ろうとするんだけど、女の子があまりにもギュッとしがみついてるせいでつんのめる。


「ちょっ、危ないっすよ!」
「んんんぅ」
「はいはい、行きましょうね〜」


店員さんは慣れた手つきで女の子を抱えて行ってしまった。その光景があまりにも異様すぎて呆然としながら見ていたら、ずっと今の今まで何も気にしていなかった同僚が「どうしたの」って聞いてくるから今までのことを伝えたら、「あぁ」って納得した様子で教えてくれた。


「あの子、椎名ニキくんが大好きらしいんだよね」
「しいな…?」
「さっきの店員さん、Crazy:Bの椎名ニキくんだったじゃん」
「え、え!?嘘っ」
「ほーんと」


びっくりした、女の子に気を取られすぎてちゃんと店員さんのこと見てなかったから、店員さんのこと言われるまで全く知らなかった。言われてからキョロキョロと店内を探してみるが、見つからない…!あぁもう、ていうか、女の子のことも知ってたんじゃん!何、我関せずみたいな、何も知りません見てませんて雰囲気出してたのよ…もう。


◆◆◆


しばらくして出来上がった料理がテーブルに運ばれて来た。あたしの頼んだものも同僚のもすごく美味しそうだったし、実際に食べてみて味も完璧!すっごい美味しかった。メニューにあるもの色々、目に惹くものばっかりだったからまた絶対来たいなって心に決める。




「蓮ちゃん、良いっすか?」
「うん!」


ふと小さな女の子の元気が聞こえて来て、視線を移してみればさっきの女の子と店員さん。同僚の言った通り、店員さんの方はあのCrazy:Bの椎名ニキで驚いた。あまりにも馴染んでいるからすごい…、アイドルが副業っていいの?って思いつつ、二人の様子を眺めてしまう。椎名ニキくんは女の子の目線に合わせてしゃがんでいるし、女の子も元気よく返事をしていて二人の距離感が見て取れる。


「これ持っていってほしいんすけど」
「蓮、できるよっ!にい、みてて!」
「はいっす!見てるから、気をつけてくださいよ〜」


椎名ニキくんが手にしていたのは料理の乗った浅いお皿。多分乗ってるのはポテトフライかな。それを女の子に差し出して心配からなのかしっかりと確認をする。けど女の子はそんなこっちの気持ちもつゆ知らずって感じで、元気よく返事をして体をソワソワさせている。


「ちゃんと両手で持ってくださいね〜」
「うん!蓮もってく!」
「ゆっくりでいいっすからね!?」
「うん!」


女の子は椎名ニキくんから受け取った料理皿を両手で持ってくるりとテーブル席の方に向かって歩き出す。しっかりとポテトの皿を見ながら歩く女の子。前を見ていないのが正直危なっかしいけれど、このお店は落ち着いた店内ってこともあり、バタバタした人がいないのが幸いだ。女の子を邪魔する人もいないし、気づけばあたしは料理よりその女の子の行動を見守ることに集中してしまう。


「…んぅ、」


女の子の表情は真剣で、周りが完全に見えていない。
どこまで彼女は行くのだろうか、転ばないだろうか。見ているこっちはハラハラしっぱなし。そして女の子が足を止めたのは一番奥の座席まで行った時だった。


「はい!ぽてとよっ!」


女の子はテーブル席に腰掛けている人に向かってそのお皿を差し出した。料理名は絶対それじゃないけれど、女の子が一人であのテーブルまで運んだことが偉いし可愛い。それだけであたしは許せちゃうし、嬉しくてニコニコしちゃう。運んでもらった人が羨ましいなと思って、視線をずらして見てあたしはギョッとする。


「蓮すごいよっ!よくできたね!!」
「んぅ!ぽてと!蓮じゃなあいっ!」


テーブルにいたのはALKALOIDの天城一彩ではないか。テーブルにポテトを持って来てくれた女の子ごと抱き抱えて全力で喜んでいるし、女の子は抱っこされているというのに全力で否定している異様な光景。なんならそのテーブルにいたのは一人ではない。もう一人、スマホのカメラを構えて二人をしっかりと撮っているのは見間違えでなければCrazy:Bの天城燐音ではないか。


「ぱぱ!蓮、にいからぽてともってきたのよっ!」
「おう、見てたぞ〜!蓮はすげぇな」
「蓮の持ってきたポテトを早く食べよう!きっと美味しいよ!」
「蓮、にいにあげてくるっ!」


いつからいたのかもわからないけれど、すごく異様な光景だ。赤い髪をした3人がわちゃわちゃとしている光景がカフェシナモンの一角で繰り広げられていて、結構自由なことをしているはずなのに、何故か見ていて微笑ましくなった。ちなみに小さな女の子はあの天城燐音の愛娘だという。なるほど、となれば天城一彩くんからすれば可愛い姪っ子だし、あんな風にベタ褒めなのも納得だ。


「おいおい、蓮!パパにまず一本だろ〜?!」
「にーい!」
「蓮!僕にもポテトほしいな!」


いやしかし、椎名ニキくんのバイト先とは言え、お店でこんなフリーダムでいちゃだめだよね?

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